「リシュターの軍議」
リシュター城内の会議室には、リシュター領地軍の代表として、軍師デカルテ、白銀騎士リセルゼ、リシュター領軍政官と部下の数人が集まっていた。
今回の魔王軍の襲撃とその撃退の状況整理、そして、リシュターを包囲する魔王軍の撃退について話をするためだ。
魔王軍討伐部隊が居る今、出来る限り早く、包囲からの解放を目指したいと考えていた。
「それでは、密かに勇者ジンダイ様が西門の奇襲部隊の支援をして下さっていたということでしたか」
軍師デカルテは、白銀騎士リセルゼの報告を聞いて驚く。
「ええ、西門守備部隊の指揮官に聞きましたら、サーペントに苦戦している守備隊を見かねて、サーペントを始末してくれたとの事でした」
リセルゼは迅代の支援の状況を説明する。
「うむ、しかし、この事は公にはせず、表向きは守備隊が協力して討伐した事といたしましょう」
「各部隊にはジンダイ様の関与については他言しないように通達を」
軍師デカルテはこの場にいる皆に周知する。
「いや、それと・・・」
リセルゼがまだ言葉を続ける。
軍師デカルテは怪訝な顔をしてリセルゼの言葉を促す。
「実は、ジンダイ様の従者、セレーニアと言う方が増援に来てくれて、ウェアウルフ1体の討伐も行ってくれたんです」
リセルゼの言葉にデカルテは感嘆する。
「ウェアウルフを、お一人で・・・ジンダイ様とその配下の方々のリシュター防衛への献身は頭が下がる」
そう言ったデカルテは少し間をおいて口を開く。
「しかし」
「この事も、関与は秘匿するべきですな・・・」
「ジンダイ様への御礼は別途考えましょう」
デカルテは会議に参列する面々の顔を見回す。
各員は頷いてデカルテの言葉を肯定する。
「さて、リシュター包囲の解放作戦だが、魔王軍討伐部隊との調整の結果、2日後の払暁に開始することとなった」
「勇者ヴィンツ様、勇者アリーチェ様がまた、反攻作戦にも参加いただけるとの事」
「魔王軍討伐部隊は、先日、攻撃が有った南東門から都市外に出て反撃を行う」
「南東門の戦力が先の攻撃により相対的に低下しているという見込みから、南東門が目標と決まった」
「そして、南東門の包囲部隊が撃破出来れば、返す刀で東門に向かう」
軍師デカルテは一息おいて、各員を見回す。
ここでは特に意見は無いようなのでデカルテは話を進める。
「我が、リシュター領地軍も、北東門からの攻撃を受け持つことになった」
「こちらも都市外に出て、包囲軍の殲滅を図る」
「同時に、西門から南東門、北東門方面に部隊を送り、残掃討の任務を預かる」
「北東門での我が部隊の分担が重荷だが、魔王軍討伐部隊からは、領地軍でも少なからず兵力を出して協力してほしいとの事だった」
「それは仕方があるまい、我が領地であるのだからな」
軍師デカルテはそう言いながらも、もう一人の勇者、ザーリージャは出してくれないのか、と不満にも思っていた。
これでは北東門では少なくない犠牲を払う事になるのだろうと。
白銀騎士リセルゼは表情を変えていないが、軍政官は色をなして発言する。
「確かに我が領地ではあるが、我々の戦力では、Sクラスの魔獣が多数出てくれば抑えきれないでしょう」
「もう一人、勇者が居るのに、力添えも貰えないのですか?」
勇者ザーリージャを念頭に不満を述べる。
確かにリシュター領の都市の話ではあるが、魔王軍との戦いは皇国が中心となる戦。
軍師デカルテも同じ思いなのだが、立場上、ここで軽々にその発言に同調する訳にはいかない。
「貴殿の思う事も理解する、が、我々が完全な指揮権を握っている訳では無い」
「戦力配置、特に、勇者の戦闘する場所は、魔王軍討伐部隊で決められる」
「また・・・」
「我々も、魔王軍討伐部隊の完全なる指揮下にある訳でも無い」
「行動の自由に対する代償と思われよ」
軍師デカルテはそう告げて白銀騎士リセルゼを見る。
また、リセルゼに負担をかける事になるのだろうと。
「これほど疎通の取れない味方であれば、いくら強大な戦力が有っても有機的な連携が難しいのではありませんか?」
「これなら勇者ジンダイ様の側と連携したほうが良いのではありませんかな?」
軍政官は思い切った事を口にして、軍師デカルテに問いかける。
「我々は魔王軍討伐部隊と組まざるを得ない」
「それは、リシュター公のご意志でもある」
「魔王軍が討伐された後の政治も絡む事なのだ・・・」
デカルテが言うリシュター公爵の意思という事を前面に出されれば反論の余地は無い。
軍政官はリシュター公爵の配下なのだから。
軍政官は大人しく提案を引き下げた。
会議が終わった後、白銀騎士リセルゼと、軍師デカルテは部屋に残って話し込んでいた。
「北東門の攻撃、我がリシュター領軍の一線兵力の全力を投入する事になるのでしょうな」
リセルゼはデカルテに問う。
デカルテは頷いて話す。
「その上、西門の兵力も全て投入する事になる」
「また西門が襲われるような事が有れば、今度こそ、橋の破壊を行わねばならないだろう」
「だが、東門、南東門、北東門のいづれかが解放されれば、西門の代わりに補給路を繋ぐことが出来るでしょう」
「無論、警戒のほうも厳重にしているので、また水堀から奇襲されることも有るまい」
リセルゼは頷いて答える。
「今回の作戦では、成功すれば、西門を放棄してもおつりがくると言う訳ですな」
デカルテはその言葉に頷く。
「しかし、ウィークポイントは北東門、我々が担当する門であろうな・・・リセルゼ殿には申し訳ない物言いだが」
リセルゼは、その言葉に、少し不満が有ったが、事実とも考えていた。
北東門の自分たちの攻撃が跳ね返され、逆襲され、都市内に侵入されれば、リシュター都市内部は魔王軍討伐部隊の勇者ザーリージャしかいない。
しかし、本当にリシュター防衛のために戦ってくれるかは、未だ未知数だった。
これまでの魔王軍討伐部隊の行動が、不安を増長させていた。
「勇者ジンダイ様に頼る局面もまた有りそうですな・・・」
「軍政官殿の物言いも仕方が無いと思いますがなあ」
そんなリセルゼの言葉に、軍師デカルテは肯定も否定もしなかった。




