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「南東門への攻撃」

夜が白むころ、魔王軍の行動が開始された。

軍師デカルテの想定通り、南東門の部隊が動き出した。


今回、初めて魔王軍側の攻城攻撃が行われる筈だった。


リシュターの全周は堀と防護壁に守られた城塞都市であり、南東門の門扉は閉じられ、堀に架かる橋も引き上げられている。

言わば城攻めと同じ困難を突破しないと、都市内のリシュター領地軍の部隊を攻撃する事は出来ない。


唯一、魔王軍の側のみが有する航空兵力。

ハーピー、マンティコアといった空を飛ぶ魔物兵なら直接攻撃出来たが、防護壁に所々ある戦闘区画からの弓攻撃にさらされる。

空飛ぶ魔物だけでは大兵力を揃えないと、リシュターの防御を突破は出来なかった。


魔王軍の動きに、南東門の戦闘指揮所から、部隊指揮官や兵員たちが固唾を飲んで見守っている。


周囲が更に明るくなってきた時、影のように姿を現したのは、ハイトロールと呼ばれる、トロールの上位種だった。

次々とハイトロールが姿を現し、その数は10体以上で、少し間隔を開けつつ横に広がって侵攻してくる。

恐らく、大規模魔法による一撃での全滅を警戒しての事だろう。


ハイトロールとは言え、トロール同様進行速度は遅い。

だが、トロールより厚い皮膚と、二周りほど大きな体格に発達した筋肉を持ちで、防御力とパワーでは数倍とされ、Bランクの魔獣並みと評価されていた。


接近するにつれ、ハイトロールの姿の詳細が露になってきたが、どうやら盾を装備しているようだった。

恐らくは弩弓の大型矢対策だろうと思われた。

そして、何か引きずっている物が有るようだが、詳細は分からなかった。


その後ろに、巨大な四本足の獣が姿を見せる。

どうやら狼か犬の系統の魔獣のようだった。

だが、距離が遠いため、詳細な姿が判別できず、魔獣の種類は分からない。

四本足の獣はゆっくりと前進を開始した。


その前進に合わせて、ぱらぱらと魔物兵の集団が姿を現す。


オークやコボルド、ゴブリンを中心とした部隊で、20体ほどでチームを組んで、チーム単位で色々なルートから進んでくる。

これも大規模魔法の警戒のためのようだった。

そのチームは50ほどの数を数えた。


これら兵力が、今回の魔王軍の攻撃部隊の第一梯団のようだった。


この、想定されていた攻撃行動に対し、リシュター領地軍および魔王軍討伐部隊の準備は出来ていた。

すでに勇者ヴィンツは南東門の裏に待機しており、いつでも行動を起こせる状態だった。

勇者アリーチェは南東門近くに自分の馬車で休んでおり、敵襲来の報が有れば駆けつける予定だった。


弩弓も2基共、矢の装填は完了し、指揮官の攻撃目標の指定を待っている。

ハイトロールの隊列が800メルト※ほどに近づいた時、弩弓指揮官が指揮棒で敵を指して叫ぶ。

※約480m

「目標、正面侵攻中のハイトロール!」

「1番弩弓照準合わせ!」


「射撃開始!!」

「ガヅン!!」


まずは1基の弩弓が発射される。


「2番弩弓照準合わせ!」


「射撃開始!!」

「ガヅン!!」


最初の弩弓がハイトロールに迫る。

しかし、矢は肩の上を通過して外れる。

狙われたハイトロールは、すぐさま、盾を前方に出して防御姿勢を取りながら前進を続ける。

そして「グオオォォン、グオオォォン」と叫ぶ。


その声に合わせて他のハイトロールたちも盾を使った防御姿勢を取る。

そこに2弾目の矢が飛んでくる。

「ガシッ」

矢は盾に弾かれて、あらぬ方向に飛び去る。


前回の来襲では西門の弩弓はかなりトロールに対して戦果を上げたが、今回は盾の防御で命中率は落ちていた。

たびたびの弩弓による射撃でもようやく1体のハイトロールに命中して、傷を負わせたが、侵攻を止めなかった。


そしてハイトロールたちが300mほどに近づいた頃、全てが停止して、引きずってきていたもので、なにやらゴソゴソとしだす。

停止したのを幸いとして、負傷しているハイトロールを集中して弩弓で攻撃し、重傷を負わせて無力化出来た。


しかし、残りのハイトロールは一斉に直径30cmほどの石つぶてを投げ出した。

だが、この程度の石つぶてでは簡単には防護壁を撃ち砕く事は出来ない。


そして弩弓が有る門の上の戦闘区画も、ある程度、上部からの攻撃にも耐えるように出来ているため、指揮官たちは、簡単には撃破は難しいだろうと考えていた。


だが、防護壁の各所にある戦闘区画は別だった。

のぞき窓の部分への直撃や、開けた部分への上部からの落下では、損害を受けそうだった。

「ガン!」「ガン!ガン!」「ガガン!」

石つぶてがガンガンと降り注ぎ、防護壁や門の戦闘区画の兵員を圧迫する。


敵の攻撃の合間に弩弓も射撃するが、ハイトロールたちは半身を縦に隠して行動しているため、思うように命中させられない。

言わば投擲器付きの移動トーチカだった。


そうこうしているうちに、大型の犬のような魔獣と、敵兵士たちのチームが追い付いてきた。

犬のような魔獣は、頭を2つ付けた犬、オルトロスだった。

恐ろしい突進力で速攻を行う魔獣で、2つの頭としっぽの蛇で同時攻撃を行うSクラスの魔獣だった。


あの魔獣がオルトロスだと判明し、南東門の戦闘指揮所がざわつく。

これは勇者でないと倒せない敵だと思われた。

しかし、今の状況で橋を下ろして勇者ヴィンツを出すわけにはいかない。

勇者アリーチェの到着を待って、魔法攻撃を行ってもらうしか無さそうだった。


そんな折

「ガガガン!!」

突然に雷鳴が響き、2番の弩弓の設置場所に雷が落ちた。

魔法攻撃だった。

2番の弩弓と周囲に居た兵員は黒焦げ状態になっていた。


オルトロスの後ろに、ゆらゆらと黒い影が見える。

魔法攻撃を行ったのは、リッチだった。


オルトロスの陰に隠れて密かに接近していたのだった。

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