「明日の備え」
迅代は、昼過ぎまで、ナナギリの代わりに皇室遺跡調査室リシュター分室の責任者代理を務めた後、睡眠をとって出てきたナナギリと交代した。
それまでに、リォンリーネとパーンには、今後の部隊の動き方、リシュター領地軍との共同行動の中断を告げた。
それを聞いたパーンは少し不満そうだったが、仕方ない事として納得していると告げた。
また、銃の開発の面で集中できるので良い面もあるとも言っておいた。
ちなみに簡易生産型銃の進み具合をリォンリーネに聞いたが概ね予定通りには進んでいるとの事だった。
ただし、弾丸を作るためにラックランの魔法士フィルスは早く連れてきてほしいとせっつかれた。
そこで、ナナギリに冒険者ギルドに連絡して、ラックランのメンバーと面会の手配を依頼しておいた。
迅代は、翌日のナナギリとの交代のために早い目に睡眠をとっていたが、夜も更けた頃にドアをノックする音で目が覚めた。
返事をすると、ここの職員がドアを開けて告げる。
「勇者ジンダイ様、お休みの所すみません」
「騎士リセルゼ様の従者である、サージョンと言う方が面会したいとお見えです」
「お会いになられますか?」
迅代は二つ返事で言う。
「わかりました、空いている会議室に通してください」
そう言いながら、あわてて身なりを整えて会議室に向かった。
迅代は自分でポットとカップを用意して、会議室に入る。
それに気づいたサージョンは慌てて起立し挨拶をしようとするが、それを迅代は制して座らせる。
そして、カップにお茶を注ぎ出した後に、自身も着席する。
どうぞ、と手を差し出し、お茶を勧める。
サージョンは、恐縮です、と言ってお茶をすすった。
そうしてようやく迅代は本題に入る。
「こんな夜分にご苦労様です。何かありましたか?」
恐らく敵情の変化だろうと想像しつつ、サージョンの言葉を待つ。
「敵の動きが有りましたので、情報共有にお参りました」
サージョンはそう言うと、東門で起きつつある敵の配置変更の動きを告げる。
そして、軍師デカルテの考えと、魔王軍討伐部隊との行動について話す。
「デカルテ様は、恐らく明日の早朝から、南東門で攻撃行動が行われるだろうと読んでおられます」
「そして魔王軍討伐部隊ですが、勇者ヴィンツ様を擁する攻撃部隊白虎支隊と、勇者アリーチェ様擁する魔法支援部隊が防衛に協力してもらえる算段が付いたとの事です」
そこまで聞いた迅代は、考えを述べる。
「ヴィンツ殿とアリーチェ殿が参戦するなら、ほぼ問題無いように思います」
「やはり彼らの力は絶大です、安心してよいと思います」
そう言った後、ボーズギア皇子の顔がよぎる。
思わず『ボーズギア皇子が余計な命令を出さなければね』と言いかけたが危うくこらえた。
リシュター領軍の人間に、皇国の皇太子で有る人物を揶揄するようなことを言うのは控えないと、と反省した。
迅代が沈黙している間、サージョンは怪訝な顔を見せる。
それに気づいた迅代は苦笑いをして告げる。
「すみません、余計な事が浮かんで・・・」
迅代は姿勢を正して続ける。
「それより、明日ですが、こちらの観測員を東、南東、北東の3つの門に派遣します」
「そして、攻撃が始まったら随時敵情を知らせてもらいます」
「もし、異常な事態が発生した場合は、我々も加勢できる体制を取っておくと、デカルテ殿、リセルゼ殿にお伝えください」
サージョンはその言葉に感謝の意を告げる。
「ありがとうございます、これで我々も心置きなく戦えます」
サージョンの用事は終わったと思い、迅代は自分のお茶に口を付けていると、サージョンが質問をしてきた。
「あと、ぶしつけな質問で恐縮なのですか・・・」
突然の事に、迅代はお茶をすすりながら、はい?と答える。
サージョンは続ける。
「魔王軍討伐部隊の陽動攻撃部隊隊長の騎士アークス様はご存じでしょうか?」
なぜ突然、アークスの話が出てきたのか見えない迅代は聞く。
「え、・・・ええ、知っていますが、何か?」
サージョンは言う。
「それが、デカルテ様、リセルゼ様の前で、自分は勇者ジンダイ様の味方をする、とわざわざ告げに来たらしいのです」
「もしや、部隊司令部の命を受けて、勇者ジンダイ様との関係で攪乱や離反を工作しようとしていまいかと警戒しておりまして・・・」
その言葉を聞いて、迅代は苦笑いをする。
アークスには西門の防衛線で会った時に、自分の立場や、リシュター領地軍と共同で戦ったことなどを話した。
その中には、デカルテやリセルゼと協力関係を持って行動していることも告げたため、それを加味した発言だったのだろう。
だが、言われたほうからすれば、前提の話無く、自分の部隊の司令官が恨んでいる人物の味方をする、と突然言われても疑心しか生まない。
そこの辺りの考えが少し不足している騎士アークスであった。
迅代はサージョンに、騎士アークスと陽動攻撃部隊は自分が一緒に戦った仲間の部隊であり、司令部の工作などではなく、本心で協力してくれる者たちだと告げた。
それを聞いたサージョンは安心して、デカルテ、リセルゼに伝えるとして、この場を後にした。
迅代は少し早いが、ナナギリと交代することにした。
明日は戦闘が発生するかもしれないため、色々と準備を行っておきたかった。




