「協力要請」
深夜に東門からもたらされた敵の攻撃行動の兆候の警報に関して、リシュター城の軍議室に主要な人物が集まっていた。
リシュター側からは、議長として軍師デカルテを筆頭に、軍政官、白銀騎士リセルゼ、東門の戦闘指揮官、増援部隊の指揮官の騎士、リシュター領主の息子であるダイス氏といった面々が揃っていた。
魔王軍討伐部隊側からは、司令官であるボーズギア皇子、首席参謀と2名の参謀、勇者ヴィンツ、そして実質は皇子の護衛役だが勇者ザーリージャも同席していた。
魔王軍討伐部隊の面々は、軍師デカルテの要請により呼び出された形だが、司令官であるボーズギア皇子は不機嫌そうだった。
彼の考えでは、深夜に頭を突き合わせて何を話すのか、という感じだった。
しかし、皇国の2番目に力を持っている領地の軍師の要請では無下には出来ない。
深夜にはあまり動くつもりは無いが、相手方を配慮して出席してやった、という感覚だった。
魔王軍討伐部隊の首席参謀は、ボーズギア皇子の不機嫌そうな態度を感じ取って、穏便に進めるべく、口火を切る。
「軍師殿、敵に動きが出て来たのは分かりますが、これはどういう会議になりますかな?」
その言葉に軍師デカルテは応える。
「はい、わが領地軍の消耗は未だ回復しておらず、到着した増援兵力も西門防衛線の警戒警備に投入している状況」
「敵側の行動に応じて、魔王軍討伐部隊の戦力をお借りしたく、集まっていただいた所存です」
そう言いながらデカルテは、魔王軍討伐部隊側の出席者を見回す。
ボーズギア皇子は目が座った感じに見える。
恐らく眠いのだろうとデカルテは想像する。
「軍師デカルテ殿、要請はあい分かった」
「敵の動きに応じて、勇者ヴィンツ殿を擁する白虎支隊を、敵の攻撃開始時には派遣致そう」
「そして、勇者アリーチェ殿を擁する魔法支援部隊を支援攻撃に参加させる事に致そう」
ボーズギア皇子はそう言って、言葉を続ける。
「これで軍師殿の心配も晴れた事であろう」
「何か特別な動きが見られたら、主席参謀に伝えれば、適切に対応いたそう」
軍師デカルテとしては、満足のいく回答だった。
デカルテは礼を言う。
「ありがとうございます、皇子殿下、小官の憂いは解消いたしました」
ボーズギア皇子は頷くと、さっさと席を立ち、帰って行った。
魔王軍討伐部隊側の出席者もそれについて退出して行った。
「あっさりと協力が得られましたな。眠かったのでしょうかな?」
白銀騎士リセルゼは呟く。
その言葉に、会議に参加していた現場指揮官の2人が笑いを抑えるのに必死の態度だった。
「こほん」
軍師デカルテは、咳払いで雰囲気を引き締める。
そして口を開く。
「我々は魔王軍討伐部隊の助けはまだまだ必要」
「相手への敬意は忘れると足元をすくわれますぞ」
要は助けてもらう身なので、相手の多少の欠点には目を瞑ろうと言う訳だ。
「今夜と言うよりは、夜が明けてからが危険ですかな」
リセルゼが敵情に話を戻す。
「そうですな。わざわざ集まっていただいて申し訳なかったが、ひとまずは解散といたしましょう」
「また小官は睡眠圧縮ポーションを使って寝るとしましょう」
軍師デカルテは呟きながら座席を立った。




