「リセルゼとの面会」
迅代は目が覚めると、リガルド、グリーナ、イリナと一緒に朝食を摂ると、西門を出て射撃が行えるところに行く予定を立てていた。
銃の完成はまだだが、イリナに銃の射撃を経験させておくためだ。
そう思って、準備をしている時に、遺跡調査室の職員が迅代の所にやって来た。
「勇者ジンダイ様に、騎士リセルゼ様が面会したいと来られましたが、いかがいたしますか?」
アポイントが無かった突然の訪問なので職員は迅代に気を使い、会うかを尋ねてくれた。
しかし、迅代が白銀騎士リセルゼの面会を断る訳が無い。
空いている応接室に通してもらう事にした。
迅代が応接室に入ると、プレートメイルを使用するときのインナーウェアを着たリセルゼが待っていた。
「わざわざ、どうしました?」
迅代が気軽い感じで質問するが、リセルゼは改まった感じの姿勢を崩さなかった。
『・・・この雰囲気、あまり良い話を持ってきたわけでは無さそうか』
そう迅代は直感した。
「こちらこそ、突然押しかけてしまい、申し訳ない」
リセルゼは少し緊張した面持ちで、非礼を詫びる。
「少しお待ちください、お茶も持って来てもらいますので」
迅代は早速話すより、少し口を湿らせた後のほうが良いと判断した。
お茶がテーブルに並べられ、職員が退室した後、少し茶を飲んで、話を始めた。
「あまり楽しい話では無さそうですかな?」
迅代は少し気を廻して話しやすいように口火を切った。
「いやはや、お見通しでしたか」
リセルゼは迅代の言葉に応える。
「実は、魔王軍討伐部隊のボーズギア皇子殿下との事でお願い事が有り、参りました」
リセルゼの言葉に迅代は覚悟をしていたように少し目を伏せ、続きの言葉を促す。
「これは軍師デカルテ殿が大変な非礼を覚悟の上でと申しておりました」
リセルゼの言葉に迅代は黙って聞いている。
「魔王討伐部隊の全力の協力を得るために、勇者ジンダイ様の公式な防衛作戦参加は、今後ご遠慮いただきたいとの事です」
リセルゼはここで一旦言葉を区切り、続ける。
「今までリシュター防衛のために多大な労力と助力を賜った、勇者ジンダイ様に、このような事をお伝えするには非礼の極みなのは承知しております」
「しかし、リシュター領民と、この城塞都市リシュターの安全が確信できるまでは、魔王軍討伐部隊の力がどうしても必要なのです」
「ボーズギア皇子殿下とはどのような経緯で今のような私怨を受ける立場になられたのかは存じ上げないうえで失礼なのですが」
「今、ボーズギア皇子殿下の機嫌を損ねてリシュターの安全を失うことは出来ないのです」
リセルゼはそこまで言うと目を瞑り、迅代が言いたいことが有るのではないかと言葉を待った。
しかし迅代からの言葉は無く、じっとリセルゼのほうを見つめているだけだった。
そこで、リセルゼは言葉を続ける。
「無論、正式な作戦行動に組み込まないと言うだけで、皇女殿下配下のジンダイ様、そして、遺跡調査室のメンバーの自由は保障いたします」
「極端にことを言えば、リシュターを去っても良いですし、独自の戦闘行動を取られても構いません」
「そして、リシュターにおられる限りは、小官が連絡役となり、ある程度の軍事行動や領内での情報もお教えいたしましょう」
「腹に据えかねる事も有るかと思いますが、何卒、ご容赦ください」
リセルゼはそう言うと、起立し、首を垂れた。
「リセルゼ殿、そこまでかしこまる必要は有りませんよ」
迅代は笑って、答える。
「まずは頭を上げて、お座りください」
迅代の言葉に、リセルゼは着席する。
迅代は少し茶を飲み、話し出す。
「つい最近までは、わたしは単独で行動していました」
「その状態に戻るまでの事です」
「そして、曲がりなりにも勇者なのです、このリシュターの危機が去るまでは、ここを離れようとは思っていません」
迅代はリセルゼの目を見つめて話す。
「かたじけない・・・小官が非力なばかりに・・・」
リセルゼは迅代の言葉に感謝を示す。
そこで迅代は話し出す。
「我々は魔王軍討伐部隊の側面援護を行おうかと考えています」
「特に調整などは考えてはいませんが」
「もし部隊が危機に陥るような事が有れば介入する事は考えています」
「それまでは、特段手出しはしないでおくつもりです」
「ただ、物資や人員資源の面で協力をお願いしたい事も有ります」
「そこは相談に乗ってもらえますか?」
迅代の問いにリセルゼは答える。
「無論です、リシュターの救世主でもある勇者ジンダイ様のご要望であれば、手を尽くして叶えるようにいたしますぞ」
迅代は、その後、都市内の通行や、西門の出入り、補給や、城内の出入り、リセルゼとの連絡方法について調整を行った後、リセルゼを見送った。




