「4人の勇者」
大規模な西門への攻撃、そして、リシュター軍の善戦と、魔王軍討伐部隊来援による、魔王軍の攻撃とん挫という出来事から翌日を迎えた。
東門、南東門、北東門で部隊を集結させている魔王軍は、結局、その後は動かなかった。
この包囲戦で、当初、時間の経過はリシュター領地軍にとって不利となる要素であったが、西門の固守によって一旦は食糧の不足という事態は解消された。
そして、十分とは言えないが、動員兵士よりも遥かに当てになる正規軍兵士2千名の増援も来れば更に防衛面での強化が行える。
更に、来援した魔王軍討伐部隊が通常通りに機能すれば城塞都市リシュターが占領されるような事態は起こらないと思われた。
しかし、まだ、現実的はリシュターは解放されていない。
リシュター側は状況が改善したことで安堵の雰囲気が生まれていたが、魔王軍の次の打ち手は全く想像できていない状況だった。
朝食の後に、勇者ヴィンツは、魔王軍討伐部隊との連絡責任者となった軍師デカルテの案内で東門の展望指揮所に居た。
現状の魔王軍の状況を知りたいと申し出たためだ。
軍師デカルテは、案内がてら、勇者ヴィンツと言う人物を見極めようと観察も行っていた。
まずは展望指揮所に上った後、軍師デカルテは東門側から見える敵の布陣を分かっている範囲で説明する。
「恐らくロングボウを警戒してか、500メルト※ほどの間合いを取って3つの簡易陣地を構築してほぼ均等に戦力を配置しております」
※約300m
軍師デカルテはそう言いながら、指揮棒でそのさらに奥の領域を指し示す。
「そしてその奥の、占領されてしまった防衛陣地は敵の司令部として利用されているようです」
その説明を、何も言わずに聞き入っている勇者ヴィンツを、軍師デカルテはちらりと覗き見る。
しかし、表情も変えず、質問もしない勇者ヴィンツからは何も読み取る事は出来なかった。
そこで少しデカルテは揺さぶりをかけるつもりで話し出す。
「そういえば、あの防衛陣地付近では、森の守護者、ボーズギア皇子殿下が言う所の勇者ジンダイ様がワイバーンを討伐なされました」
「勇者と言われれば、納得と言う戦果でございましたな」
軍師デカルテが、その言葉を言い終わり勇者ヴィンツのほうをちらりと見ると、視線がぶつかる。
一瞬、たじろぐ。
百戦錬磨の状況を経験してきた軍師デカルテであったが、まさか、勇者ヴィンツの反応を得られると思っていなかった状況での視線の交錯に、一瞬の威圧を感じたのだった。
「ジンダイ殿は、どのような方法でワイバーンを討伐されたのか?」
口数の少ない勇者ヴィンツの質問にすこし驚くデカルテ。
しかし、気持ちを持ち直し、説明を行う。
「森の守護者様は、ジュウという武装をお持ちで、なんと、このリシュターの防壁の区画から、その防衛区画まで、2000メルト※ほどの距離が有るのに攻撃し、ワイバーンを討ち取ったのです」
※約1200m
軍師デカルテには、それを聞いた勇者ヴィンツの瞳が少し揺らいだように見えた。
「それほどまでの力を、ジンダイ殿は得たのだな・・・」
勇者ヴィンツは視線を戻し、誰に聞かせるでもないように、そして、感心するかのように、ぽつりと呟いた。
その様子を見て、軍師デカルテは考える。
少なくとも勇者ヴィンツは、ボーズギア皇子のよう感情を、勇者ジンダイに持ってはいないのだな、と。
恐らくは勇者アリーチェも勇者ジンダイに対して悪感情は持っていないようだった。
むしろ、勇者ジンダイとの会話の雰囲気から親しみすら持っているように感じた。
だが、勇者ザーリージャについては分からない。
ボーズギア皇子に勇者ジンダイの存在を教え、わざわざ揉め事を起こさせるような真似をした。
少なくとも勇者ジンダイに対し、同じ勇者としての仲間意識を持ってる様な事は無さそうだった。
魔王軍討伐部隊の内部関係は脆弱で、キッカケが有れば崩壊してしまうような状況では無いか?と疑念すら浮かんだ。
しかし、軍師デカルテは考え直す。
司令官のボーズギア皇子の存在だった。
その勇者間の遠心力をまとめるのが次期皇帝とも目される、ボーズギア皇子の存在だと。
しかし、少し違和感も覚える。
勇者たちとは、それほどまでに反発しあう者なのかと。
そう思う中、4人の勇者の状況を同時に考えることで、何かが見えるような気がした。
組織と言う枠組みを超えれば、違った見え方がするものが有るように。
「では、今度は南東門を案内願います」
勇者ヴィンツに付き添ってきた、白虎支隊の隊長に声をかけられ、軍師デカルテの思考は中断される。
「あ、ああ、承知いたしました、こちらへ」
軍師デカルテは慌てて勇者ヴィンツたちの案内へと思考を戻した。




