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「従者の想い」

ようやくアーロス領の代理総督業務に関する、代替人員の派遣が決まって、セレーニアの安定していた業務の忙しさが再び増していた。

しかし、この引継ぎが済めば、セレーニアはアーロス領から離れる事が出来るようになる。

それは、すなわち、セレーニアの本来の仕事である勇者ジンダイの従者に戻ることが出来る事を意味していた。


元アーロス領主の別荘を利用したセレーニアの執務室には、セレーニアが採用した事務官たちがひっきりなしに出入りしていた。


「ところで、何故、あなたはのんびりと座って居るのかしら?」

セレーニアは執務室の隅の机でうとうととしているアレジアに向かって言った。

んが、っと居眠りを中断させられたアレジアが答える。

「あ、居眠ってました?すみません」

「でも、わたしの本来の仕事をこなしているまでです!」

アレジアは椅子に深くもたれながら、臆面もなく仕事中である事をアピールする。

何故なら、アレジアの仕事は、セレーニアの護衛なのだから。


「トールズは外で荷物の指示を行ってくれていますよ」

セレーニアは同僚のトールズの働きを引き合いに出してアレジアに苦言を呈する。


本当は、アレジアは、セレーニアの魔法力で温度を少し下げて快適にされたこの部屋を出て行きたくないだけだった。

「トールズが離れている間は、わたしがセレーニア様をお守りするんです」

としたり顔で言うアレジアは、この2か月ほどの間、セレーニアと一緒に過ごしてきて遠慮がなくなっていた。

そう言う態度はセレーニアにとっても楽なのではあったが。


しかし、何と言っても、アーロス領主反乱騒ぎの際のアレジア、そして、トールズの忠誠の心は、今のセレーニアにとって大きな心の支えにもなっていた。


この機会にと、事務員が居なくなった部屋で、セレーニアはアレジアに話しかける。

「アレジアとトールズは、アーロス領の仕事が終わった時、本隊から指示は受けているのですか?」

「やはり、近衛第四部隊への復職となるのですか?」


その言葉を聞いてアレジアはちらりとセレーニアのほうを見て、視線を宙に浮かせた。

「そうですよね、もう、アーロスの任務は終わりそうですもんね・・・」

「まあ、本隊からは何も言われていないですね」


セレーニアはそんなアレジアの姿を見つめながら、言う。

「もし、だけど、皇女殿下の部隊に誘ったら来てくれるかしら?」

「アレジアのキャリアを考えると、メリットは少ないかも知れないのだけれど・・・」


アレジアはぐいっと机の前に体を持ち出して言う。

「キャリアとか関係ないです!セレーニア様の下で今後も働きたいです!」


「アレジア・・・」

セレーニアはそんなアレジアの言葉を聞いて、感銘を受ける。


「だって、今までの仕事を考えて一番気楽に出来るんですもん」

「上司はいつも口うるさい人ばっかりだったので、セレーニア様は言うけれど許してくれますからね」

アレジアはにっこり笑って答えた。


「む、やはり考え直します」

「アレジアにはもっとビシバシと厳しい人の下に就く方が本人のためのようですね!」

セレーニアはすこしふくれた顔でアレジアに言う。


「えええ?そんなセレーニアさまあ」

アレジアは哀願するようにセレーニアを見る。


「アレジア、わたしと一緒にジンダイ様の部隊に入ると楽が出来る訳では無いのですよ」

「きっと、命を懸けたやり取りが増える事になります」

「それがアレジアの思う所では無いのでしたら、一緒に行かないほうがあなたの為です」

少し本音の意見を言う、セレーニア。


「セレーニア様、わたしは別に楽したり働きたくないとか思ってはいないですよ」

「意味が有る戦いなら、命もかけます」

「側に置いてほしいんです」

「セレーニア様をお助けしたいんです」

アレジアも真面目な顔で告げる。


そこに、コンコンとドアをノックする音がする。

使用人が事務官が報告書を持ってきたとの告げる。


今までの話を途中で止めて、事務官を迎え入れて話を聞く。


アレジアの言葉に胸がいっぱいで、少し、表情が紅潮し、瞳が潤んでいたため、事務官が少し戸惑っているようだった。

それでも、せいいっぱいに普段通りを繕い、事務官の相手をするセレーニアがアレジアをチラっと見る。


また、アレジアはうとうととしていた。


頭に渦巻いた複雑な気持ちがさっと晴れて、また、お小言ね!と素早く頭を切り替えた。

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