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「永年兵ルーフ」

『くそ、しくじった・・・』

『こんな戦争バカだったのか、この勇者』

ルーフは平静な顔の裏で、自分を呪っていた。

近衛隊内の噂では、ジンダイと言う4人目の勇者はハズレ勇者で、正面の戦闘に出されないと聞いていた。

そんな中、輸送伝令隊内で、ジンダイの部隊に転属を希望する者を募集していた。

ジンダイの部隊に入れば、一時金と、兵士の給金にボーナスが付くと言う。

そろそろ軍の引退を考えていたルーフは、これにいっちょ賭けてみるか、と応募し、採用された。


一時は喜んだが、もう一人は2年兵のグリンというガキのような兵士で、部隊はジンダイを含め3人だと言う。


これは、まともな部隊とは思えなかった。少し不安がよぎる。

だが、司令官のボーズギアもバカでは無いだろう、勇者を使い潰すなんてする筈がない、そう思い込もうとしてた。

すると、今度は、勇者自ら

「俺が死ねと言ったら、死ぬよな?」

みたいな事を言われ、

「お前、命令を無視してるだろ?」

というような事を言われた。


この勇者は俺たちを殺す気だ。

戦場で価値の無い駒のように魔物に突撃しろと命令するに違いない。

ルーフは上官や貴族の命令を聞かないことを、裏切りや、背信とは思っていなかった。

彼らが自分を人間扱いしていないのに、なぜ命令を守る必要が有る?奴らの命令は目立たない範囲で守らなくて良いと考えていた。


しかし、この勇者は先手を打って、命令を忌避できないように釘を刺してきた。

『これなら足の一本でも折って無理に退役するか・・・痛いのはイヤだけど。』

そんな風に思い至っていた。


「・・・年兵」

「ルーフ永年兵」

ふと呼ばれている事に気づいた。


「あ、へい、すみません」

変な返事をしてしまい隊長相手に心証を悪くしたか?と一瞬思った。

しかし、逆だ、もうろく爺さんと思われるのも悪くないと考えた。

いつもは兵役に堪えず、という烙印を押されないよう反応はきびきびと、を心がけていたのだが、退役するなら逆だ。


迅代は真剣な目をして言った。

「俺は、作戦では誰も犠牲を出したくないと思っている」


「??」では今まで言っていたことは何だったのだ?とルーフは混乱する。


「俺は二人に「死ね」なんて事は言わないし、そうなる行動を取らせる事もしない」

「危険な任務も有るかも知れないが、可能な限りの安全策は考慮しよう」

「君たちが危機に瀕するならば、俺も付き合う。その場合、命の保証までは出来ないが、一緒に戦って、最大限の努力をすることを誓おう」

「だから、俺の事を裏切って良い相手だと思わないでほしい」

「裏切るぐらいなら、本音で話してほしい」

「それが、今まで色々と挑発的で失礼な事を言った真意だ」

「失礼な事を言って、申し訳ない」

迅代はそう言うと、座ったままだが頭を下げた。


「はい!」とグリンは言いかけたが、ルーフが押し黙っているのを見て、声がしぼんでいく。

またルーフ心の中で呟く。

『なんだ、この面倒な上官は』

『裏切るな?一緒に戦う?そんな言葉が何になる?』

『いざとなって盾にされるのは俺たち。同期のリーグも、アレオも貴族の盾になって死んだんだ』

『俺は近衛隊勤務を生き残って、あの子と酒場を開いて余生を過ごすんだ』


「何か言いたいことや聞きたい事は有るか?」

2人を見る迅代。

ルーフは目を伏せたままで口を開かなかった。


「今日まず言いたかった事はこれまでだ」

「明日から、休息日以外は部隊の行動訓練を行う」

「六刻※の鐘が鳴る頃、戦闘装備で兵舎前に集合」

※朝6時ごろ

「よろしいか?」


「はい!」「へ、へい」

ルーフとグリンはばらばらに返事をした。


「では本日はこれまでとし、以後自由時間とする」

迅代が立って敬礼をする。


慌てて2人も立って敬礼をする。

部屋を退出しようとするルーフに、迅代が声をかける。

「ルーフ永年兵、生半可な怪我では退役できると思うなよ」

「は、はあ」何を言っているんだとルーフは怪訝な顔をする。

「足を折っても、腕を折っても、近衛隊の精鋭ヒーラー部隊にきれいサッパリ直してもらうから、そのつもりで」

迅代の言いたいことを理解した。

自傷では治すので辞めさせないと言う訳だ。

普通は下級兵士がケガをしたぐらいではヒーラー部隊は使わせてもらえないが、それを行うと言う。

ルーフは愛想笑いで敬礼をしたが、内心は、余計なお世話だ、と毒づいていた。

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