「リシュター公爵」
魔王軍討伐部隊は西門を超えてリシュター内の入域後、すぐにリシュター城内に案内された。
領主であるリシュター公爵が直々に司令官への挨拶を行いたいのだと言う。
司令官であるボーズギア皇子、勇者ヴィンツ、勇者ザーリージャ、司令部参謀3名で城内を案内される。
勇者アリーチェもと言われたが、不規則発言をされると面倒なので、お疲れのために辞退として断っていた。
応接の間に入ると、リシュター公爵、リシュター公爵の息子のダイス氏、戦闘明けで休養を取っている軍師デカルテの名代として白銀騎士リセルゼ、そして、軍務官の4名が出迎えた。
一通り、各員の紹介が行われた後、着席し、会談が始まる。
まずはリシュター公爵が来援の礼を述べる。
「この度は、リシュター防衛のために参じていただき、感謝いたしますぞ」
恰幅の良い体をふるわせるように発言する。
その言葉にボーズギア皇子は返答を行う。
「リシュター殿、ご心配召さるな、我が魔王軍討伐部隊が来援したからには、すぐさまリシュターを狙う敵どもを駆逐いたしますよ」
ボーズギア皇子は揺るぎない自信で持って、敵の討伐を約束する。
その言葉にリシュター公爵はにこやかな顔で受け答える。
「おお、おお、さすがは勇者を擁する決戦部隊、頼もしいお言葉を頂き、安心いたしました」
そう答えながらリシュター公爵は薄く目を開き、ボーズギア皇子の表情を伺い見る。
おだてられた言葉に調子に乗り、何の懸念も恐れも感じさせないボーズギア皇子の表情をじっと見つめていた。
その横から白銀騎士リセルゼが質問する。
「魔王軍討伐部隊としてはどのような作戦行動をとられるおつもりでしょう?」
「我がリシュター軍は敵の包囲下で完全包囲を阻止するのがやっとの状況なのですが」
その言葉に、ボーズギア皇子は参謀に合図をする。
参謀はあらかじめ想定していた行動を話し出す。
「我が部隊は攻撃編成の部隊故、攻勢局面で能力を発揮する部隊であります」
「ですので、攻勢のタイミングを協議いたし、敵の主力を撃破するような戦闘行動がとれればと思っております」
参謀の言葉に、白銀騎士リセルゼは横に座る軍務官となにやら話をしたのちに言った。
「我がリシュターを守備する部隊は決死の防衛作戦が終ったばかりで、兵の消耗も大きい状態です」
「あと1日もすれば増援の兵士2千も到着いたします」
「増援到着までの間、様子を見ていただき、攻勢の期日を決める形で良いでしょうか?」
魔王軍討伐部隊の首席参謀が、ボーズギア皇子と会話を交わしたのちに言った。
「問題ございません」
リセルゼはあともう一つと、口を開く。
「先ほども申しましたが、我が防衛部隊は大きく消耗している状態です」
「魔王軍討伐部隊の中からも防衛用の兵力をお貸しいただけまいか?」
また、首席参謀がボーズギア皇子に話しかける。
ボーズギア皇子は面倒そうに手を振り、何事かの会話がなされたのちに、首席参謀が言った。
「わかりました、勇者部隊ではない支援攻撃部隊、陽動攻撃部隊の人員を守備兵力としてお使いください」
どうやら40名ほどの人員のようだったが、正規兵なのは大変ありがたいとリセルゼは思う。
「ありがとうございます、では、後ほど、西門前線指揮所に来るようにお伝えください」
リセルゼの言葉に、首席参謀は頷いて応えた。
少し議題が落ち着いた頃、突然ボーズギア皇子が口を開いた。
「ところで、リシュター防衛軍の中に、我が魔王軍討伐部隊から敵前逃亡した勇者ジンダイが居たのだが、どういったいきさつなのですかな?」
そう言いながらボーズギア皇子はリシュター側の出席者を見回す。
ボーズギア皇子はこの件でリシュター側に問いかければ、二つ返事で迅代を差し出すと考えていた。
しかし、驚いたことにリシュター公爵自身が口を開いた。
「あの者は、クロスフィニア皇女殿下の配下の者として我が領防衛に協力してもらっているミードゥーと言う名前です」
「今回の防衛線でも大きな戦果を挙げられた」
「我が領としてはあの者が勇者ジンダイ様なのかは真偽を知りません、が、防衛には欠かせない戦力なのです」
予想していなかった言葉を返されてボーズギア皇子はたじろぐ。
特に勇者ジンダイが大きな戦果を挙げて防衛に欠かせない存在であると言う言葉が、にわかに信じられなかった。
「あの出来損ないの勇者が大きな戦果とな??そんな事が信じられるはずが無い!」
半分バカにしたような言葉でジンダイの評価を信じられないボーズギア皇子、しかし、白銀騎士リセルゼが戦果を読み上げる。
「いや、ミードゥー殿の戦果は恐るべきものですな」
「魔獣だけでも、ワイバーン1体、サーペント3体、アースドラゴン3体、グリーントータス1体、そしてBランク魔獣多数を討伐されていますな」
その声に魔王軍討伐部隊側の出席者が目を見張る。
さすがの勇者ヴィンツでもワイバーン相手だと苦戦するかも知れなかった。
「そんな力が勇者ジンダイに有るはずが無い!」
ボーズギア皇子は思わず怒鳴ってしまう。
だが白銀騎士リセルゼは冷静な声で反論する。
「いえ、その戦果の多くはミードゥー殿のもので間違いありませんな」
その言葉を聞いて、勇者ザーリージャの目が鋭くなった。




