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「森の守護者の正体」

魔王軍討伐部隊の来援によって、魔王軍のリシュター完全包囲を企図した西門攻撃は実質失敗に終わった。

戦っていた将兵は魔王軍討伐部隊を取り囲んで感謝の言葉を投げかける。

未だ1万数千ほどの敵に囲まれているリシュターであったが、魔王軍討伐部隊が来たからにはもう負けないという気持ちで喜んでいた。


西門前線指揮所から軍師デカルテが馬に乗って司令部馬車の所まで馳せ参じる。

そして、司令部馬車の前で畏まり、口上を述べる。

「リシュター都市防衛の任を預かっております、デカルテ・ガーブズと申します。」

「この御旗は魔王軍討伐部隊のものとお見受けいたします」

「司令官閣下にはご挨拶を申し上げたく参上いたしました」


司令部馬車の扉が開き、ボーズギア皇子がゆっくりと出て来る。

そして、畏まるデカルテの前に立ち、口を開いた。

「リシュター防衛の任、ご苦労されたかと思う」

「我々、魔王軍討伐部隊も協力し、リシュターに迫る脅威に対処しようぞ」


その言葉を聞いて周囲にいたリシュター領軍の兵士たちも歓声を上げて喜ぶ。

「死ぬんだと思っていたが、こんなにうれしい事は初めてだ」

「魔王軍討伐部隊は勇者部隊、その力は千人力だぜ」


そんな歓声を上げる兵士たちの中に迅代は居た。

じっとボーズギア皇子の姿を見ていた。

ボーズギア皇子の傍らをふと見ると、勇者ザーリージャが周囲を見張っていた。

『確か、暗殺に怯えているとか、セレーニアさんが言っていたか・・・』

そう考えていると、ザーリージャと目が合う。


それからはずっとザーリージャは迅代のほうを見つめている。

『もしかして、バレたか?』

迅代は視線を宙に浮かすようにして、自然に見えるように目を逸らした。

『いや、そう言えば顔のマスクが疑われたのかも知れないな』

自分の恰好を思い出し、苦笑した。


しかし、ザーリージャはボーズギア皇子に耳打ちするような動作をした。

それを聞いたボーズギア皇子はみるみると怒りの顔に変化した。

「な、なに!?ジンダイが居ると??」


皇子の叫び声に、迅代はため息をつく。

『甘かったか、さすが勇者という所か』

自分の変装を喝破したザーリージャに感心しつつ、どう対応しようか考える。

『確か、今の俺は皇女殿下の特殊部隊員という事になっている筈だが』

『こうなるならリガルドにもっと事情を聴いておけばよかった』


そんな事を思っていた所、自分の前に人が居なくなっている事に気づいた。

ボーズギア皇子に指を刺され、周囲の人がよけて迅代とボーズギア王子との間に遮るものがなくなっていた。

久しぶりに対峙するボーズギア皇子と迅代。


ボーズギア皇子は当時の経緯を忘れたかのように叫ぶ。

「勇者と言う肩書を持っていながら敵前逃亡をした罪人め!!」

「よくもまあ、わたしの前に姿を見せる事が出来たな!!」


その言葉に周囲のリシュター軍兵士たちもざわつき出す。

「確か、魔王軍の味方をしているという噂の、あのジンダイ?」

「森の守護者はジンダイだって?」

「皇国軍を裏切ったジンダイ」

「あいつが裏切り者の迅代??」

ざわざわと話す兵士たちの言葉は全て勇者ジンダイに否定的な言葉ばかりだった。


周囲の雰囲気が勇者ジンダイに否定的なのを感じて、ボーズギア皇子は安心し、軍師デカルテに釈明を求めた。

「デカルテ殿、どういう事であるか!?」

「裏切り者の勇者ジンダイがここに居るとは??」


水を向けられた軍師デカルテは、一瞬、沈黙する。

デカルテは向こうに立つ迅代を見つめる。

そして口を開く。

「その緑髪のマスクをされた方が勇者ジンダイ様であるのかはわかりません」

「ただ、皇女殿下直属の特殊部隊員であるとだけ教えられております」

「そして、その特殊部隊員の方が居なければ、リシュターはもっと困難な状況に直面していたでしょう」

「今回の防衛作戦の最大の功労者であると評しております」


デカルテの落ち着いて、流れるような口調で迅代を評価する言葉を聞き、ボーズギア皇子は怒りの形相を示す。

「そちは!わたしの!わたしの言葉を信じず!、あの勇者ジンダイを庇うと言うのか!!」

ボーズギア皇子は所かまわず大声で怒りを示す。

「あの!、あの!ジンダイを!、あのジンダイを!!」

「わたしは!、わたしは第一皇子であるぞ!」

「その、その言葉を!蔑ろにされてよいはずが無いぞ!」

ボーズギア皇子の言葉は論理性より感情に支配されているのは明白だった。

このような口調では誰にも何故勇者ジンダイが目の敵にされなければいけないのか、全く理解されていない。


魔王軍討伐部隊を歓迎していたムードが一気に冷めてしまう。

ただ、リシュターの兵士たちも、軍師デカルテが言った言葉が噓では無い事は知っていた。

悪い噂ばかりを聞いて勇者ジンダイは悪者だと考えていたが、森の守護者=勇者ジンダイという事になると、話は違う。

リシュター防衛に尽力し、数々の高位魔獣を討伐し、防衛戦闘の中、命を救われた兵士は沢山居た。

「あの森の守護者が、勇者ジンダイなら、悪い奴のはずが無いだろう」

「ああ、俺も命を助けられた」

「俺もだ」

周囲のリシュター軍兵士たちは、ボーズギア皇子の言葉を信じる者は居なかった。


そんな中、癇癪を起しているボーズギア皇子を尻目に、勇者アリーチェが迅代の元にやってくる。

「緑の勇者の人は、髪も緑になったの?」

屈託のないアリーチェの言葉に苦笑いをし、迅代は答えた。

「ああ、そう、髪を緑にしてマスクをつけるようになったんだ」

「うふふ、面白いね!」

「ふふ、はは・・そうだね、面白いね」


奇妙な雰囲気の中、アリーチェと迅代は笑い合っていた。

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