「戦闘状況:来援」
魔王軍の勢いはあきらかに弱っていた。
E、F区画では魔法騎士ジュブラの参戦で敵は守勢に回っていた。
B、C、D区画で断続的に攻撃を仕掛けていた敵部隊も、迅代達が穴をふさぎ、下手に兵員を集結させるとフィルスの広域魔法を食らうため散発的な攻撃に終始していた。
お互いが決め手を欠く中でも、魔王軍は撤退しなかった。
しかし、リシュター軍も。そもそも大規模な反撃をして敵に攻撃を諦めさせる戦力を持っていない。
このまま、リシュター軍の増援が到着するか、魔王軍の強力な戦力投入が起こるかしか、戦況は動かない状況だった。
そろそろ陽も傾いて来る。
リシュター軍の防衛部隊は、戦い通しのため、兵の疲れが目立って来ていた。
夜になるとさすがに動員兵は戦えないだろうという雰囲気が漂っているが、誰もそのことを口にしなかった。
夜の活動が人間より秀でている魔物兵のほうが有利となる。
敵の狙いはそこかも知れなかった。
そんな時、西門の先の防衛陣地からドッと歓声が上がる。
西門へと至る道を進む騎馬の部隊が接近しつつ有った。
その先頭には、青いプレーメイルを来た、精悍な武人がロングソードを振り上げていた。
そして、騎馬の部隊は魔王軍の兵たちが固まっている所を狙って蹂躙していく。
混乱を起こす魔王軍の兵士たち。
騎馬の集団は魔王軍を蹴散らしながら、だんだんと門のほうに進んで行く。
戦力の均衡が一気に崩れる。
この状況を生かさないと敵を押し返すタイミングを逸してしまう。
迅代はそう判断し、各区画の指揮官に伝令する。
「援軍来たれり、契約兵、一般兵は堀を超えて、敵を押し返せ」と。
動ける残り少ない契約兵と一般兵が、堀を降りて混乱している魔王軍兵士を襲撃する。
迅代自身も、グスタージを連れて堀を超える。
ふと気づくと、敵の後方に所々、爆発が起こっていた。
敵の集結点を狙った魔法による遠隔攻撃のようだった。
『あの青いプレートメイルの戦士、そして、こんな遠隔攻撃が出来有るのは・・・』
『魔王軍討伐部隊』
迅代はそう考えたが、今は、敵に損害を与え、撤退させることが重要と考え、その先に何が起こるかは今は考えない事にした。
青いプレートメイルの戦士、勇者ヴィンツは騎馬の集団を率いてD、C、Bと区画の敵を蹂躙して回り、その後、取って返して戻って行く。
敵は、ヴィンツの襲撃と、遠隔魔法攻撃、勇者アリーチェの攻撃で、攻撃態勢の維持を諦めたようだった。
魔王軍の兵士は、散り散りになって後退している。
少なくとも、南翼の防衛線の近くには、敵の兵士は見えなくなっていた。
「て、敵は・・・」
「敵は撤退した!」
D区画の指揮官が大きな声で叫ぶ。
その声に、防衛線を守る動員兵、一般兵、そして契約兵までが歓声を上げる。
「うおおおおお!」
「敵を押し返したぞ!」
「勝った、勝ったぞ!」
そして北側防衛線からも歓声が上がる。
北側の敵も合わせて後退を開始したようだった。
今日行われた地獄のような防衛戦は、防衛成功と言う形で終われそうだった。
そして、西門に続く道にもう一つの部隊が姿を現す。
魔王軍討伐部隊の本隊だった。
陽動攻撃部隊、黒龍支隊と続いて、重厚な司令部馬車が姿を現す。
防衛線に居た兵士たちは、歓声を持って出迎える。
魔王軍討伐部隊の来援で、一気にバランスが傾き、リシュター側が勝利できたのだ。
迅代はそんな司令部馬車を見て思う。
「さて、どうするか・・・」
と。




