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「2人の兵士」

兎にも角にも、まずは部下2名に会って見ることにした。

なんでも他の部隊は専用の兵舎を与えられているが、スカウト部隊は、輸送伝令部隊の兵舎に間借りさせられていた。


輸送伝令部隊の兵舎を覗き込む。

何人かの兵士が広めの部屋に集まって談笑していた。

迅代が声をかける。

「すまない、スカウト部隊の隊員が居ると聞いたんだが、居るか?」

「指揮官のジンダイなんだが・・・」


全員が飛び起きるように直立不動になり、敬礼する。

「あ、楽にして良い。スカウト部隊の隊員は・・・」

その言葉に、若い少年のような兵士が一人と、老齢の兵士が一人、前に出た。

「ルーフ永年兵であります」

ルーフというのが老人で、年齢は50歳ぐらいか?口に白ひげを蓄えている。

確かこの国では勤続年で兵士の位としている。

『永年兵と言うのは確か10年以上勤続している兵士と言う事だったか』


「グ、グリン2年兵であります」

少年のような兵士は、背は低く、顔を真っ赤にして緊張しているようだ。

『2年兵という事は、基礎を学んだだけの兵士と言う事か』

『えらくムラの有る人選をしてくれたな・・・』

ボーズギア皇子の嫌がらせの徹底ぶりに感心した。

『さて、どうするか・・・』


「こほん、えー」

迅代は何を言うか考えていなかったので、少し時間を稼ぐ。

「両名、色々と聞きたいことが有る」

「今から戦闘装備を整え、私に付いて来てもらいたい」

とりあえず部屋で話を聞くことにした。


「外で待っているので、準備出来次第集合してくれ」

「わかりました!勇者様!」

二人は勢い良く返事をした。


二人は頭部のヘルメット状の鎧に軽装兵の恰好に細身のショートソードといういで立ちで出てきた。

どう見ても一線級の兵士の装備では無さそうだった。

もしかしたら輸送伝令部隊から転籍させられただけかもしれない、迅代はそう想像した。

兵練場の脇に各部隊の兵舎が有るのだが、そこから城内の、迅代が普段居る来賓用の部屋にまで2人を連れてくる。

近衛隊に所属してはいるが、あまり城内に入ったことが無いらしく、キョロキョロとしながら付いてくる。


部屋に案内した迅代は言った。

「まあ、とりあえずそこに座ってくれ」

客間のソファーに座るように促す。

二人はおっかなびっくりで、ソファーに腰かける。


特にルーフ永年兵のほうは、座りはしたが落ち着かない様子だ。腰をもぞもぞさせている。

「まずは、挨拶しよう」

「私は今回設立されたスカウト部隊の隊長、ジンダイだ」

「もう噂で知っているとは思うが、勇者として異世界から召喚された者だ」

「ブリムブリガ皇国の魔王軍侵攻を防ぐべく、尽力したいと思う」

「二人も、大きな困難が有るかも知れないが、一緒に協力してほしい」


「わかりました!勇者様!」

二人は敬礼して声をそろえて言った。


迅代は待女を呼んで、お茶を用意してもらう。

そして二人にお茶を勧めた。

二人とも慣れない手つきでお茶を飲む。


迅代は少し考えて言った。

「さて、うわべの話は終わりにして、本音を聞かせてもらおう」


ルーフのお茶を持つ手が止まる。

「近衛隊に居れば良くわかっているだろ?貴族や上官のいう事は絶対、死ねと言えば死なないといけない」

迅代の言葉に、ポツリとルーフが言う。

「それが、国から給金をもらっている兵士の役割ですから」

迅代は続ける。

「俺のスカウト部隊は、大きな危険が有るとわかっていても任務のために作戦を遂行する」

ルーフが伏し目がちに言う。

「それがご命令でしたら」


少し迅代が挑発的に言う。

「ルーフ永年兵、君はなぜ今まで生き残ってこれた?」

ルーフの肩が少し動いたのが分かった。

しかしルーフは相変わらず目を伏したまま言う。

「運が良かったんでしょうかね・・・」


迅代は更に挑発的に言う。

「それは死ねと言う命令を上手く忌避したんじゃないのか?」

「もしくは、死地に近寄らないように鼻が利くんじゃないか?」

しかしルーフは少し汗をかきながら言う。

「わかりません」

その後ルーフは押し黙ってしまった。


「グリン2年兵は、戦闘に参加したことは有るのか?

「ありません!勇者様!」

ルーフとのやり取りを不安そうに見ていたグリンが元気よく答える。

「勇者様は止めてくれ、様も付けず隊長で良い」

「はい!隊長!」

「で、君は「死ね」と言われて死ねるのか?」

迅代がド直球で聞く。

ルーフをチラ見した後に言った。

「もちろんです!」


「グリン2年兵には、家族や恋人は居るのか?」

「はい!婚約者がいます!」

「では、死んでは婚約者を一人にしてしまうじゃないか」

迅代の言葉に、グリンは少し言いよどんだが言った。

「それでも魔王軍討伐部隊で戦って死ねば英雄です!」

「なるほど、英雄か」


迅代が下した二人の評価はこうだった。

まずルーフ永年兵はサボタージュするタイプだろう。

表面は建前を崩さないが、本当の危険には敏感で、上手く切り抜けてきたのだろう。

さすがは30年ほど軍歴を持つであろう御人だと感心した。


グリン2年兵のほうは何も考えていなくて本当の恐怖や死も知らない、正に勢いだけの新兵だろう。

これは色々な面で鍛えないとすぐに死んでしまうだろう。


『前途多難だな・・・』

迅代は兵力不足に加え、数少ない部下の取り扱い方も検討しないといけない事にげんなりした。

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