「戦闘状況:大攻勢」
リシュター軍の西門防衛線の南側は度重なる攻勢によって崩壊しかけていた。
防衛線の堀は、所々死体が積み重なり、用をなさなくなっていた。
防衛側の兵士も消耗し、区画ごとの防衛力も落ちる一方だった。
突破した敵を迎え撃っていた契約兵たちも負傷者が増え、穴を防ぎきれない状況も起こっていた。
この現状に、軍師デカルテは戦線の縮小を決定した。
南、北共に、A~Fの6区画のうち、門から遠いE、Fの2区画を放棄し、A~Dの4区画に戦力をまとめる事とした。
すなわち、包囲状態となる事は甘受するという事だった。
「やはり、勝ちきるには無理が有ったか・・・」
リォンリーネの乗る馬の手綱を持ちながら、迅代はつぶやく。
戦線の整理で防衛兵力の密度は上がるが、敵の攻撃力の密度も上がる。
このまま包囲状態からの逆転は困難だと言わざるを得なかった。
「くっ、ヤバいで!ミノ軍団や!」
グスタージがそう言って後退してくる。
「何体居る?」
迅代はミノタウロスの事と理解し、戦力を聞く。
「ざっと6体、そのうち2体は赤色や!」
通常と異なるミノタウロスが2体、まさか普通のタイプより弱いという事も無いのだろうと考える。
「グスタージ、悪いが付き合ってくれるか?」
迅代はグスタージに確認する。
「ほんま、人使い荒いなあ」
「まあ、ラックラン代表として付き合ったるわ」
呆れた顔で言うグスタージを見て迅代は言う。
「悪いな、何か礼はするよ」
そう言って、迅代は戦闘の手順を話す。
グスタージはそれを聞いて言う。
「ほんまえげつないなあ、俺も一応人間やで」
「ああ、だがあんたのスピードはピカ一だ、反射神経も良い、ぜひ頼む」
迅代はグスタージにそう言うと、リォンリーネに向かって言う。
「リーネ、これからは混戦になるので、西門に戻ってください」
「いままでありがとう」
それを聞いてリォンリーネが不安そうに言う。
「も、戻ってきますよね?」
その問いに迅代ははっきりと返事をする。
「無論ですよ」
その言葉を聞いて、リォンリーネは西門のほうに戻って行った。
戦線の整理が行われたのに合わせて、敵の大攻勢が始まる。
再び敵が次から次へ押し寄せる。
それを防衛線で防ぎ、隙を見て倒す。
しかし、明らかに防衛側は劣勢だ。
そして、D区画辺りからミノタウロス6体がフォーメーションを組んで進んでくる。
迅代はそれを認め、ライフル銃を用意する。
グスタージに頼んだのは護衛だ。
連射出来ないライフル銃の隙を埋めるための。
迅代は立ち姿勢でフォーメーションの端に居る、赤いミノタウロスを狙う。
「ボン!キュィィィィ!」
音速よりも早い弾丸がミノタウロスの胸を貫く。
筈だったが、姿勢を変えてかわされてしまった。
「よけた?」
慌てて次発を装填する。
赤いミノタウロスは迅代とその前に居るグスタージを見つけ、目を剥く。
「ボン!キュィィィィ!」
2発目を撃つ、が、これも避けられてしまう。
そして、グンとミノタウロスの体が膨れたかと思うと、迅代の近くにダッシュしていた。
「くうぅ!!」
予想外の動きに迅代は焦る。
そこにショートソードが延びる。
「ギン!!」
赤いミノタウロスは両手に持つショートソードを、グスタージのショートソードが止める。
お互いショートソードの二刀流だった。
迅代はこの赤いミノタウロスはグスタージに任せ、次の獲物を狙う。
残りのミノタウロスは、周囲を制圧しつつ前進している。
次発を装填し、今度は防衛陣地を蹂躙している通常のミノタウロスを狙い、撃つ。
「ボン!キュィィィィ!」
「ドウッ!」
狙ったミノタウロスの腹部に命中し、倒れ込む。
残りのミノタウロスは、迅代の攻撃が危険なものであることを理解したようだった。
もう一体の赤いミノタウロスが迅代を指さし、残りの3体とで迅代を狙って来るようだった。
迅代は、ミノタウロス4体相手では、勝てる気がしなかった。




