「魔王軍討伐部隊の動向」
「3000あまりの兵が侵攻準備を整えている所でした」
「リシュター領軍は防衛線を敷いて迎え討つ構えのようでした」
「せめて白虎支隊や黒龍支隊だけでも後方からの襲撃に間に合えば、敵は大混乱を起こすでしょう」
魔王軍討伐部隊の司令部馬車の軍議の場で、騎士アークスは進言する。
しかし、魔王軍当別部隊司令官、ボーズギア皇子は、肩ひじをついて、うんうんと話を聞いているだけだった。
そしてアークスの報告が一区切りついたところで口を開く。
「3000の兵が居るとは言っても、強力な魔獣などでは無いのであろう?」
「その程度、リシュター領の兵たちが抑え切るであろう」
「我が隊の一部を割いてまで急いで駆け付けて助けてやる必要も無いだろう」
「だいたいそんな事をすれば、部隊も疲労するし、隊列も大きく狂う」
そう言い放つボーズギア皇子に、アークスは反論する。
「しかし、皇子殿下、リシュターは奇襲により兵力が十分ではないと情報が有りました」
「詳しいことは分かりませんが、一刻も早く戦闘に加わるほうが良いように思います」
その言葉にボーズギア皇子は右手を振って、否定する。
「前線指揮官が余計な考えを巡らさずとも良い、与えられた任務のみ全うされよ」
そう言いながらボーズギア皇子は、うっすらと笑っているように見えた。
「しかし、」
反論しようとするアークスにボーズギア皇子は形相を変えて声を荒げる。
「黙られよ!もう報告は聞いて、司令官としての判断も述べた」
「それを更に意見するとは、不敬であるぞ!」
ボーズギア皇子の言いようにアークスは黙るしかなくなる。
皇子に対する意見が不敬であると言わんばかりの口調だ。
「し、失礼いたしました、皇子殿下」
アークスはそんな剣幕に抗する事も出来ず、謝罪の意を示す。
それを見たボーズギア皇子は平穏な顔に戻って言う。
「うむ、では、本部隊は予定通りこのままリシュターを目指す」
「各々よろしいかな?」
ボーズギア皇子の言葉に、アークスを含め、軍議に出ていた指揮官たちは皆、頷く。
司令部馬車から降りたアークスをヴォルカとオーリアが待っていた。
「どうでした?」
ヴォルカはアークスに様子を聞く。
「このまま前進、それだけだ」
アークスはあきらめたような口調で言う。
そんなアークスにヴォルカは想定通りかと思う。
挟撃の件はアークスに少し入れ知恵してみたけれど、司令官の意思を動かすような事までは、アークスには出来ないと思っていた。
もっとも、ヴォルカも進んで戦いたい訳でも無い、
だがリシュターの人たちが苦しむのなら助けてあげたいぐらいの気持ちからの進言だった。
「このままの速度だと、リシュターに着くのは夕方ぐらいですね」
ヴォルカは続く道の先を見ながら言った。




