「戦闘状況:南翼防衛線の戦い4」
満身創痍のラックランのメンバーだったが、ミノタウロスが討伐出来た事で一息をつく。
まだ防衛線での攻防は続いているが、防衛線の完全な決壊は防げていた。
「助かった、ミードゥー殿」
ラックランのリーダーサンパノは、苦しそうに迅代に言う。
回復ポーションによって傷口は塞がれているが、リシュターのポーションでは完治は難しいようだった。
特に、ミノタウロスに斬り付けられた、サントニロとキュロイは目を覚ましていなかった。
出血が大きかったようだ。
「いえ、降りてきて正解でした、あんな強力なミノタウロスが居るとは」
迅代は、サンパノの言葉に返答した。
「けっ、もっと早く来いっての」
グスタージは助けられた身ながら相変わらず憎まれ口を言う。
「おい、いいかげんにしろ」
サンパノは本来物腰優しい性格だったが、今回の戦いではグスタージの言葉に注意をする事が増えた。
それほど、メンバーが負傷したり敵に押されたりして気が立っているようだった。
「済まない・・・」
迅代はグスタージのほうを向いて言う。
そこに悪い足を引きずってパーンが首を突っ込んでくる。
「北翼のグリーントータスと、南翼のミノタウロス2体を討伐していたからな」
「で、お前さんは何体の魔獣を倒したって?」
パーンは今までの迅代が挙げた戦果を言って反論する。
さすがにこの戦果を言われるとグスタージもぐうの音も出ない。
信じられないような目で口をパクパクさせている。
グスタージが反論できないでいる後ろで、サンパノとバンノーも目を丸くする。
「い、いや、あと、第一梯団のアースドラゴンの強化種も2体倒していたよな・・・」
サンパノが呟く。
「あなたは本当に森の守護者では無いのか?もう勇者並みの戦果を軽々と挙げている・・・」
バンノーも感嘆の声を漏らす。
と、不意にパーンがクロスボウを射る。
「ドサッ」
その向こうには矢に射抜かれたコボルドが倒れ込む。
「のんきに話していられないぜ、敵はまだまだ来てるぞ」
パーンはそう言いながらクロスボウの矢を装填する。
ミノタウロスが現れた当初よりは敵の圧力は弱まっているが、まだ、第二梯団の攻撃は続いていた。
「皆さんは後退してください。あと、あんたはグスタージだったか?軽傷みたいだな、まだやれるよな?」
迅代は挑発的な言葉を言うグスタージに煽りを入れる。
「お、おう、かすり傷や、まだイケるで」
グスタージは高圧的な物言いで逆に恥をかいてしまったが、切り替えも早い方だった。
「じゃあ、俺と来てくれないか?、一気に戦果を拡大する」
迅代は、パーン、グスタージの3人での行動を提案する。
「わーったよ、助けてもろたしな・・・付き合うよ」
そうして、ラックランのメンバーは、グスタージ以外は西門に撤退した。
「ミーさん、どうする?敵に突っ込むんか?」
グスタージは迅代に作戦を聞く。
「み、ミー?って俺?」
グスタージの言葉に迅代は聞き直す。
「名前、言いにくいやんか?だから、ミーでエエやろ」
そう言われても迅代は納得できない。
「ミーかぁ、もっと違う言い方出来るんじゃ・・・」
迅代がブツブツ言っているのをグスタージが遮る。
「細かい事は気にすんなって、で、はよ、作戦」
迅代は納得できなかったがこれからの行動方針を話す。
「敵の物量を撃ち減らす」
「俺とグスタージで防衛線を超えて雑魚も構わずに数を討ち取る」
「パーンは後方からの支援射撃、どうだ?」
グスタージと、パーンは頷く。
ミノタウロスが明けた防衛線の穴から、敵領域に進む。
防衛線の区間指揮官と兵員に言って、撤退がしやすいように、通れる幅だけ、積んでいる土嚢を堀に落としてもらう。
パーンは支援射撃なので堀の手前に留まっていた。
そして、迅代と、グスタージは堀を登り敵の前に出た。
たった2人でやってきた兵士に、わっと周囲から魔物兵が集まって来る。
それをグスタージは得意の速攻で次々と魔物兵にダメージを与える。
「ザバッ!ジュブッ!ズサッ!」
一瞬で5~6体の敵を倒す。
迅代も負けずに、ライフル銃の銃床と、自分のバトルナイフを駆使し、迫る敵兵を順次倒していく。
パーンも前に出ている二人に近付く敵をクロスボウで射る。
そして、掘の中から寄って来る敵兵は、動員兵の混成部隊が、崩した土嚢の部分に近付けないように攻撃する。
「ボン!キュィィィ!!」
隙を見つけては、迅代は魔物兵を銃撃で撃ち倒す。
そうこうして敵兵を、あっという間に50体ほどに損傷を与える。
だが、この状況に懲りず、更に、両側からと正面から魔物兵が集まる。
ゴブリン、コボルドなどは敵ではなく、一瞬で切り刻まれる。
オークには一瞬とは言わないが、それでも、数度剣を交える程度で撃退する。
更に40体を志望または負傷させ、撃退したが、まだまだ敵はやってくる。
「ええ加減、疲れてきたな」
グスタージは少し息が上がっているようだ。
無理もない、グスタージは反射神経も良くいい太刀筋だが、オーバーアクションで無駄が多い。
「そろそろギブアップか?グスタージだけ下がっても良いぞ」
迅代は再び煽りが入った声をかける。
「・・・」
「やったるわい!」
グスタージはそう叫んで、振るう剣のキレが戻る。負けず嫌いに火が付いたのだ。
「無理はするなよ!」
迅代はそう言って、単純なグスタージの態度に少し微笑みながら、戦いに戻る。
そろそろ撃退した魔物兵が150体ほどになったのを見計らって、迅代は言う。
「そろそろ頃合いだ、引くぞ!」
「え?おい、引くんかいな!」
グスタージは突然の声に驚く。
しかし、冷静に見てみると、魔王軍の攻撃の勢いがかなり弱まっているようだった。
攻撃の主力として用意した、魔獣や、ミノタウロス、オーガがすべて打ち取られ、その他の兵士も損耗している。
その上、防衛線の突破は未だに果たせていない。
迅代は敵が再編成に戻る頃合いと見ていた。
そして、その読みは当たっていた。
魔物兵たちは、損害を抑えるように、整然と退却した。
敵の第二梯団の攻撃も、なんとか防ぎきる事が出来たようだった。




