「戦闘状況:南翼防衛線の戦い3」
第二梯団が約2400もの兵士でもって南側防衛線に襲い掛かって来た。
対する防衛線の動員兵士との混成部隊が1700ほど、戦力比は更に開いていた。
しかし、ラックランのメンバーが合流し、戦闘力だけで見れば損害で撃ち減らされた兵士分の働きは十分期待できた。
ただ、侵攻側の魔王軍には、この第二梯団にミノタウロスが3体、オーガが2体確認されている。
やはり厄介なのはミノタウロスだった。
力の強さ、反射神経、素早さ、どれを取っても一級の戦士の力を持っていた。
「・・・・」
迅代はじっとミノタウロスの頭にライフル銃の照準を合わせる。
進軍している内の一体だ。
そしてトリガーを引く。
「ボン!キュィィィィ!!」
弾丸は音速を超えて、音より早くミノタウロスに達する。
殺気を覚えたミノタウロスの頭が揺らぐ。
弾丸が飛んでくる方に顔を向ける。
「ガシイィィィ!!」
頭蓋骨を貫通せずにミノタウロスの鼻ずらに沿って弾丸が滑る。
そして弾丸は後方彼方へ飛んでいく。
「グオオオオオォォォ!!!」
突然の攻撃に損傷を受け、怒り狂うミノタウロス。
しかし、周囲の魔物は何が起こっているのか分からない。
傷を負って怒り狂うミノタウロスに怯え周囲で戸惑っている。
そんな味方を、ミノタウロスは自分の獲物の大剣で切り付ける。
「ギャウ!」「ギャアアア!!」
直ぐ側にいたゴブリンとコボルドが斬り付けられた。
迅代はそんな狂騒を遠くから眺めつつ、次弾を装填する。
そして。
「ボン!キュィィィィ!!」
2弾目を発射する。
今度は防具に守られた胴体の直ぐ上、首の付け根辺りを狙った。
「バシッ!!」
今度は真正面から弾丸が命中し、首から頸動脈を切り裂いたらしく、血が噴水のように飛び出した。
狼狽するミノタウロスはその場でうずくまり、血を撒き散らしながら、ばたばたと暴れていたが、やがて動かなくなった。
絶命したようだった。
周囲の魔物兵たちはそれを見て、怯えていたが、周囲の魔物に促されて進撃を再開した。
この調子で迅代は視界の範囲に居るミノタウロスを更に1体始末したが、オーガ2体とミノタウロス1体は迅代が陣取る防壁の戦闘区画からは確認できななかった。
防衛線の堀に追い落とす戦術はまだ概ね、機能していた。
敵は、なかなか突破できない事に業を煮やし、オークだけで編成された突撃隊で、防衛線を破ろうと試みた。
一度は突破を許したが、契約兵の魔法士が魔法を放って足を止め、兵士や契約兵の集中攻撃でその集団も壊滅できた。
そしてとうとうオーガが現れた。
しかも2体連携しての攻撃を行うようだった。
この事態にラックランのメンバーが出張って来る。
「へへ、こいつは手応え有りそうやで」
オフェンスで軽装戦士のグスタージが言う。
「油断は禁物、まずは魔法です」
そうリーダーのサンパノは言うと魔法士フィルスのほうを見る。
「ええ、まずは電撃系でダメージを与えましょう、サントニロ」
名前を呼ばれた支援魔法士のサントニロは頷くとフィルスと共に詠唱する。
「サンダーボルト!」「サンダーボルト」
「ガーン!」「ガーン!」
大きな音と共に稲妻のような電撃が、それぞれ2体のオーガに直撃する。
「グブブゥゥ・・・・」
ダメージを受けたオーガは体の一部が焦げた状態で唸る。
しかし思ったほどのダメージは受けていないようだった。
「行きます!」
サンパノ、キュロイが右、グスタージとバンノーが左と分担して襲い掛かる。
しかし、オーガはまだまだ動けるようだった。
「ブン!」
右のオーガはメイスを振り回し、攻撃を寄せ付けない。
しかもキュロイの矢をメイスで打ち払うほどの俊敏さも持っていた。
「キン!」「キン!」「ガギッ!」
左のオーガも長めの戦斧でグスタージの速攻を防ぐ。
バンノーもロングソードで斬り付けるが、これも防がれる。
このオーガの後ろからどんどんオークやコボルドを中心とした兵士たちが防衛線内に入って来る。
オーガを倒し、侵入口となっている防衛線を塞がないと、防衛線は決壊する。
正規兵や契約兵が侵入してくる敵兵を順次撃ち倒しているが、一気の突破しようと100体以上の兵を集めており危険な状態だった。
「くっ!フィルス!広域攻撃を!」
サンパノの言葉にフィルスは詠唱する。
「スリーマルチプル・サンダーウェーブ!!」
通常の3倍の高威力広域攻撃を発動する。
「ガガガン!ガガガン!ガガガン!」
オーガの後方に集まっていたおよそ200体の魔物兵が一気に電撃の洗礼を浴びた。
オーガの後方50mほどの領域には魔物兵の遺体が散らばり、もう動く物が無かった。
その攻撃に一瞬怯んだオーガも、ラックランのメンバーの攻撃に押され、じりじりと後ずさって行く。
そして隙を見せた右のオーガにはキュロイの矢が刺さる。
一気に防御力が衰えて、右のオーガはサンパノの槍の餌食となった。
左のオーガはバンノー、グスタージの連携攻撃に徐々に押されていたが、トドメにまでは至っていなかった。
そこに、もう1体の魔王軍の戦士が現れた。
ミノタウロスの戦士だった。




