「スカウト部隊」
「これは、どういう事なんです!?ボーズギア殿下!」
休養が明けた迅代は、魔王軍討伐部隊司令官室、すなわちボーズギア皇子の部屋で大声を上げていた。
「ジンダイ殿、声が大きい。部屋の外まで聞こえますぞ」
めんどうそうな顔を演技で作ったボーズギア皇子が言う。
それに応じて、周囲に立つ参謀やとりまきの兵士もクスクスと笑う。
「申請は4名×8チーム、32名が最低ラインと伝えていましたよね??」
まだ迅代の声のトーンは下がらない。
なにせ、今日発表された迅代の部隊は兵士が2名しか配属されないのだから。
「まあまあ、ジンダイ殿も戦いには少し覚えが有るようだが、ここはブリムブリガ皇国。我が国なりの戦闘序列が有るのでね」
そんな迅代を制するようにボーズギアが得意げに説明し出す。
「まず、司令部部隊は部隊の中枢。これが無くては機能しないので別格として」
「わが国で最も重要視されるのが攻撃戦力部隊、これは言うまでもなく、ヴィンツ殿ザーリージャ殿が属する部隊である」
「そしてその次が火力支援部隊、ロングボウや長距離魔法攻撃が主であるな」
「これも、言うまでもなくアリーチェ殿の部隊である」
「そしてその次は・・・補給部隊である」
「なぜスカウト部隊でないのか分かるかな?」
迅代はイライラしていた。何を聞かされているんだ?と言った感じだ。
「そんな事わかりませんよ」
ボーズギアが嬉しそうに言う。
「やはり!そうでしょうな。情報は重要である、それはわたしも理解しているよ」
「でも、魔王軍討伐は言わば国内戦、情報なら十分に上がってくるのだよ」
「地図は整備されており、土地の領主、領民からも情報を得られよう」
「それであるのに何故わざわざ多数の兵力をスカウト部隊に投入せねばならない?」
「すでにある情報をまた調べなおすのであるか?」
ボーズギアがキメ言葉を言ったかのように見下ろすように顎を上げる。
それに応じて、参謀やとりまきの兵士たちもまたクスクスと笑う。
「戦場は流動的です。昨日無かった砦が今日有るかも知れない」
「伏兵が進撃路に潜んでいるかも知れない」
「古い情報を盲信する事こそ、非常に危険と言わざるを得ません」
迅代は醒めた口調で反論する。
「かも知れない、かも知れない、そんな事を言っていては怯えて何も出来ないではないか」
「スカウト部隊のような正面で戦わない部隊には、2名いれば十分であろう」
ボーズギアは聞く耳を持っていない。
『なるほど。何を言っても無駄か』
迅代はこれほどとは思っていなかった。
この皇子は勇者3人が居れば全て解決すると思っているのだろう。
どう勝つか、とか、犠牲を出さないためには、とかの思考も無さそうだった。
『これは、自分が甘かった。現代の思考じゃダメだ。専制国家の発想で動いていることを絶えず意識しないと』
『おそらく兵士の犠牲など何も感じないのではないか』
そんな思考が渦巻く。
「わかりました、では、スカウト部隊なりに貢献できる方法を考えます」
「失礼いたしました」
迅代はそう言うと敬礼をする。
「うむ、期待しているぞ、勇者ジンダイ殿」
全く期待感のこもらない声でボーズギアが言った。
迅代が出て行った後、取り巻き達は口々に褒める。
「見事です、ボーズギア殿下。勇者様を論破されるとは」
「勇者様ですら扱いはお手の物ですな、さすが王の器」
そんな言葉を聞きながら、ボーズギア皇子はいい気分に浸っていた。
ボーズギアの部屋を出て、自室に向かう道すがらに考える。
『ボーズギア殿下のあの調子では部隊の増強は望めない』
『自前で戦力が増強できないだろうか・・・』
『セレーニアさん、場合によってはに皇女殿下に相談してみるか』




