「戦闘状況:北翼防衛線」
白銀騎士リセルゼはキングボアを討伐し、北翼防衛線まで後退してきた。
戦った魔獣、キングボアをリセルゼと部下2名でなんとか討伐できた形だったが、魔法騎士ジュブラが重症で後退させられた事に驚いた。
「で、敵の魔獣はどうなった?」
リセルゼがE区画指揮官に確認すると、遠くを指さす。
その先には、恐らくB区画の担当域付近の前線に、巨大な亀の甲羅のようなものが見える。
そしてE区画指揮官が状況を説明する。
「森の守護者様が代わりに討伐してくれました」
「あの亀の魔獣が防衛線に到達していれば、一気に戦線は崩壊していたでしょう」
その言葉に、リセルゼは、ミードゥー殿、すなわち迅代の力の大きさを改めて認識する。
「もう敵の集団が到達するぞ、準備を!」
リセルゼはE区画の兵員たちに告げる。
北翼防衛線の少し先に、砂塵が舞っている。
敵集団の進軍だ。
都市防壁の赤色の旗も、あと300mほどの距離を指示している。
2~3分で敵が到達する距離だった。
「敵到着間近!、各員戦闘用意!」
区画指揮官が叫ぶ。
いよいよ北翼側も、敵に接敵する。
都市の南側の防壁を見ると、赤い旗が1本だけ見える。
「まだ持ちこたえているな、南側は」
リセルゼの呟きに、部下のサージョンが返す。
「さっきの指揮官に聞きましたが、南翼の第一陣は撃退したそうです」
リセルゼはそれを聞いて言う。
「こちらは敵を減らす罠などが無いからな・・・丸々二千の敵との勝負だ」
「我々は、大物を狙う、ゴブリン、コボルドなどの雑兵には目もくれるな!」
オーパとサージョンは頷く。
そしてトロールの集団が隣の区画、D区画に迫っているのが見える。
敵は、C、D区画当たりの中央を突破する体勢のようだった。
B区画に迫っていたグリーントータスが討ち取られたのは敵の誤算だったのかも知れない。
北翼は戦力見積もりが少ない分、対トロール矢の装備も少ない。
それでも、果敢に対トロール矢の攻撃を開始する。
徐々にリセルゼ達が戻ったE区画にも兵員が迫っていたが、トロールの始末御優先するべきと考える。
「D区画のトロールに対応する、付いてこい」
オーパとサージョンに告げ、D区画に向かった。
「ひゅん!」
「ボン!」
対トロール矢を撃ち込み、命中した。
しかし、敵の数が多い。
集団数が少ない分、トロールの数は6体と少し南側の集団より多かった。
「くっ!、ダメだ!抑えきれない!」
「ひゅん!」
焦った弓兵の矢は狙いが甘くなり、弾丸の発射機構が発動せずに地面に落ちる。
西門からの弩弓の支援射撃も有るが、少し距離が有るため、狙いも付けづらいようだった。
「うわあああ!」
「無理だ!!」
トロールが眼前に迫った動員兵たちはさっさと持ち場から逃げ出す。
「用意!、てーっ!」
近くの火炎瓶要員2名が、協調して火炎瓶を1体のトロールに投げつける。
「ガシャン!」「ボウッ!」
「ガシャン!」
1個は不発だったが、もう1個はトロールの胴体に当たり炎を上げる。
そのトロールは手で炎を払おうとするが、手にも油が付き、炎に包まれる。
が、トドメを差すまでには至らない。
火傷をして負傷しているが、まだ動いていた。
「ヒューーン」
「ザッ!!」
弩弓の矢が、炎に包まれたトロールを仕留める。
「やったぞ!」
兵員は歓声を上げる。
しかし、まだトロールは3体居て、防衛線の堀を易々と乗り越えて侵入してくる。
その後ろには、コボルド、オークたちも続いて、堀を乗り越えて来る。
「敵を続かせるな!用意!」
「てーっ!」
火炎瓶を穴の開いた防衛線の後ろの敵に投げ込む。
「ガシャン!」「ボウッ!」
「ガシャン!」「ボウッ!」
炎が上がり、後続部隊をけん制する。
しかし、トロール3体と、数名の兵士が防衛線の内側に入り込んだ。
「まずいぞ!弓兵!」
弓を射かけるが威力が足りず進撃を抑えるほどでは無い。
この区画担当の契約兵がかかる。
「サンダーボルト!」
魔術士が魔法をトロールに打ち込む。
1体はダメージを受けてよろよろとしている。
ただ、付いて来たコボルド、オークが契約兵たちに対峙する。
このままでは戦線が崩壊する、指揮官は自らも剣を抜き戦闘の準備をする。
「ふんむ!!」
そんな時、一番端のトロールが腰から太ももにかけてバッサリと大剣で斬り付けられる。
「グォォオン!オオオオォォォン」
トロールの独特の叫び声が周囲に響く。
白銀騎士リセルゼが大剣ダイアライアで放った一撃だった。




