「戦闘状況:グリーントータス討伐戦」
迅代とパーンは北翼側の戦況を聞くために、西門前線指揮所に入る。
そこには一睡もせずに戦闘指揮を執る軍師デカルテがリシュターの地図を前にして、各員に指示を出していた。
「デカルテ殿、北翼の魔法騎士ジュブラ殿が負傷し後退したとか?」
迅代はデカルテに声をかける。
「おお、来ていただけましたか!」
迅代の顔を見て、沈んでいた顔が明るくなる。
そしてデカルテは、北翼に現れたグリーントータスについて説明する。
「なるほど、強固な防御力と、魔法耐性に超回復を持ち、背中に兵員20名ほどを抱えて侵攻してきていると・・・」
確かに厄介な敵だった。
その上、音波による攻撃で、前方範囲の兵員を無力化できると言う。
迅代は対応策を考える。
『頭部への徹甲弾による狙撃』
『この方法が最も良さそうだが、亀の魔獣なので首を甲羅に引っ込められれば討伐は難しくなる』
『リミッターを解除して威力を上げるか?』
『いや、そうすると銃身が損傷してもう使えなくなる』
『まだ、戦いは長い、今、銃が使えなくなっては、リシュターの防衛は厳しくなるだろう・・・』
地図を見つめ、押し黙っている迅代をデカルテとパーンは見守る。
『背中の兵員を無力化して、魔獣の正面に出て首を引っ込めた状態でも銃撃できるようにするか・・・』
『銃撃速度と超回復の速度の勝負になるかも知れないが』
迅代はそう考え口を開く。
「まずは背中の兵員を無力化しましょう」
「弓の狙撃と、わたしの銃での狙撃、それで大半を無力化できれば、後は、正面から徹甲弾で頭部を狙います」
「ロングボウの兵士を何チームか廻してもらえますか?」
その進言にデカルテが答える。
「分かり申した。防壁の弓兵、それと防衛線より前に出ているソルティアゴルドのチームの弓兵を付けましょう」
そこにパーンも口を出す。
「じゃあ、俺も防壁の戦闘区画から狙わせてもらうぜ」
「足が悪くて機動戦は出来ないがな」
討伐戦の方針は決まった。
パーンと伝令兵は、防壁の戦闘区画に移動する。
そして迅代は、装備の一部を置いて身軽になり、徹甲弾の弾倉2つと、通常弾の弾倉4つを持って行動を開始する。
迅代はソルティアゴルドへの伝令兵と共にが西門から出て、北翼の防衛線を超えて敵魔獣のほうに向かう。
防衛線には動員兵士たちが積んだ土嚢の陰で、不安そうな顔で待機していた。
すでに遠くに巨大な亀の魔獣が見えている状態だ。
動員兵士たちは、この亀の魔獣が目の前に来ただけで、戦わずして逃げてしまうだろうと思われた。
『防衛線には何としても到達させてはいけない』
そう迅代は考えながら、魔獣のほうに向かって行く。
その姿を動員兵士たちが目で追う。
魔獣のほうに迅代が進んで行くと、すでに防壁からの弓による攻撃は始まっていた。
距離がそこそこある上に、グリーントータスの背中の甲羅は岩のような遮蔽物が有り、なかなか敵兵に当たらない。
遠距離での弓による精密射撃は難しい。
だが、その攻撃が牽制になって、迅代の攻撃がやりやすい状況になっていた。
伝令兵がソルティアゴルドの兵員と話を付けたらしく、地上からも弓の攻撃が始まる。
背中に遮蔽物が有るとは言え、両側から弓の攻撃を受けてゴブリンたちは注意力が散漫になっているようだった。
そこを、適当な遮蔽物の陰でライフル銃を構えた迅代がゴブリンを狙う。
300mほど距離が有るが、弓と違ってライフル銃は弾道が安定しており、スコープ越しに精密射撃が出来る。
まずは正面から頭が丸見えのゴブリンを狙い、撃つ。
「ボン!キュィィィィ!」
ゴブリンの頭が吹き飛ぶ。
周囲のゴブリンたちはなぜ仲間がやられたのか分かっておらず、怯えて縮こまっている。
「ガチャッ、ガチャッ」
槓桿を操作して排莢と次の弾丸を装填する。
また、上半身が見えているゴブリンを狙う。
「ボン!キュィィィィ!」
首の付け根に弾が当たり、血を噴き出してゴブリンが絶命する。
「ガチャッ、ガチャッ」
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
迅代の攻撃に次々と仲間がやられて行く状況に、ゴブリンたちはパニックになる。
そして、周囲からの攻撃に慌て、徐々に弓矢にも当たるゴブリンが出て来だした。
迅代は弾倉を入れ替え、更に狙う。
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
次の弾倉を撃ち尽くすころには、無傷なゴブリンは居なくなっていた。
しかし、そんなことはお構いなく、グリーントータスはノシノシと前進を続けている。
迅代との距離が50mほどにまで近づいていた。
ライフル銃の弾倉を徹甲弾の物に変える。
そして、グリーントータスの前に躍り出て、すぐさま頭めがけて銃撃を開始する。
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
撃った後、間髪入れずに次発を装填する。
立ち姿勢で撃ったため、弾丸は頭を少し逸れ、左の首辺りに命中した。
大きな衝撃を受け、グリーントータスの行き足が止まる。
しかし、傷口は徐々に塞がって行く。
同時に、口を開いて何かを吐き出すような体制を取る。
『まずい!』
音波攻撃を察知して、迅代は加速ダッシュで出来る限り右に移動する。
「パウ!!!!」
音波の範囲からは逃れられ、迅代は無傷だった。
即座に銃を撃つ。
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
今度はグリーントータスの頭の眉間に弾が当たる。
「バシィィィ!!」
グリーントータスは頭をグルグルと回して苦しんでいるようだった。
同じ位置を狙って再び銃を撃つ。
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
少しずれたが、また眉間付近には命中する。
今度は頭を甲羅の中に引っ込めようとする。
その動きに構わず銃撃を続ける。
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
「ボン!キュィィィィ!」「ガチャッ、ガチャッ」
同じ位置を狙って弾倉内の弾がなくなるまで連続して銃撃する。
グリーントータスは首を引っ込めたままの顔の位置には2つほど大きな穴が開いてドロドロと緑色の液体を垂れ流していた。
どうやらもう超回復の機能が働いていないようだった。
そして、4本の足に力を失い、ゆっくりと、前に倒れ込んだ。
「ドオオオオン!」
地面にグリーントータスの体が崩れ落ちる。
そして、もうグリーントータスは動かなくなっていた。
背中からポロポロとゴブリンたちが逃避するが、周囲から攻撃していた弓兵たちに打ち取られた。
「おおおおおおおお!!!」
北翼防衛線でこの戦いを見ていた兵士たちは歓声を上げた。
この勝利が、絶望の色を持って諦めていた兵士たちに、希望を与えたことは間違いなかった。




