「お茶会」
「セレン、今日は時間バッチリだね」
クロスフィニア皇女は白い部屋にセレーニアを迎え入れた。
「久しぶりにゆっくり休んで、ちょっと怠けたくなっちゃうけどね」
セレーニアが返す。
「あー、私との友情の証の会をサボる気?」
ちょっと拗ねて見せるクロスフィニア。
「ふふふ、今日はちょっと落ち込んじゃってるから、話したかったのよ、フィア」
すこししおらしい感じの表情をするセレーニア。
「あれれ?鉄の女と噂されているセレンが落ち込んでるって、大変」
「え?誰が鉄の女なの?」
クロスフィニアの言葉に聞き返すセレーニア。
「だって外交部局の女の子が、鉄の女セレーニア様が目標なのってみんな言っているらしいわよ。本心はどうせ腰掛だろうけど」
クロスフィニアの言葉にショックを受けるセレーニア。
「ホントですか・・・いや、それは嫌かも・・・」
更にしおらしくなるセレーニア。
「で、何が有ったの?やっぱジンダイ様の事かな~ぁ」
そう言いながらセレーニアのカップにお茶を注ぐ。
「ええ、そうなんだけど、ちょっとジンダイ様の前で泣いちゃって・・・」
「え?そ、そ、そ、それは、とうとう手を出してきた??」
クロスフィニアが少し茶化して面白そうな顔で言う。
「そ、そんな事ありません」
セレーニアが顔を真っ赤にして言う。
「でも、だって、召喚されてから何日間かは、夜伽を覚悟してたよね?」
クロスフィニアの挑発にセレーニアが顔を更に真っ赤になる。
「それは、そうだけど!ジンダイ様はとてもとても真摯な人で、イヤらしい目で見られた事すらありません!」
迅代が召喚された当時、勇者を引き留めるためにあらゆる手段を使う事になっていた。
その中にはセレーニアが体を差し出すと言うものも含まれていた。
「じゃあ、その真面目なジンダイ様に悪い所でもあった?」
すこし慈愛のこもった瞳でセレーニアに問いかける。
「ジンダイ様は、真面目で真摯なんだけど、少し・・・ドライな感じなの」
「特に勇者としての立ち居振る舞いを要求されたとき、そこを優先して自分をも二の次に置いているみたいな」
「悪い言い方をすると、死に場所を探しているような・・・」
セレーニアはぽつぽつと思ったことを口にしていった。
「それから、私にもかなりの遠慮をしているんだと思う」
「勇者である自分だけが戦い、救うのだと・・・」
「それを感じた時、とても悲しくて悔しい気持ちになったんです」
「私は従者として、ジンダイ様の真のお役に立てていないと」
「あれほど、ジンダイ様は召喚されただけの無縁の皇国に尽くそうとされているのに」
クロスフィニアはセレーニアの話を聞きながら、いつもの足をブラブラさせていた。
そして一区切りがついた時に、口を開いた。
「セレン、人はなぜ生きてるんだと思う?」
突然の唐突な問いに、セレーニアが戸惑う。
「えっと、どういう・・・」
クロスフィニアが続ける。
「人はさ、自分のために生きてるんだけど、他人のためにも生きているんだよね」
「他人の居ない自分はからっぽ。生まれてから過ごしていく中で、多くの他人と関わっていく」
「そこで、影響を受けたり、好きになったり、嫌いになったり、絶交したり、死に別れたり」
「その、なんだろう、想いの階層みたいなものを持っているのがその人と思うんだ」
「召喚された勇者様はそこの部分が一度切れてしまって、からっぽになっちゃった気持ちになるんだと思う」
「歴史書の勇者様でも、多くの人が皇国を救うために全力を尽くしてくれている」
「でも、その後を記録されている勇者様は多くない」
「この世界に馴染み、一生を終えてくれていたのなら良いのだけれど・・・」
「そういう意味では呼び出した張本人のわたしもジンダイ様には責任が有る」
「ジンダイ様も、形式的でない仲間やコミュニティを作ることが出来れば、この世界に対する愛着も生まれるでしょう」
まじめに話すクロスフィニアの言葉を黙って聞いていたセレーニア。
クロスフィニアの言葉に少し希望が見えた気がした。
「もちろん恋人って手もあるわよ」
クロスフィニアがいたずらな目で言った。
「恋人・・・なるほど・・・」
真剣に考えるセレーニア。
「あらら、重症かも、これは」
そんなセレーニアを見て、クロスフィニアは呟いた。




