「防衛作戦開始前」
西門前線指揮所の前の広場には、西門防衛に関わる各部隊の指揮官や、契約兵たちの代表が集まっていた。
軍師デカルテが西門防衛の作戦を再確認したいとして集めたものだった。
概ねの方針としては作戦計画書として各部隊に昨晩のうちに配布済みだった。
しかし、間際でアップデートされた情報を共有する事を目的としていた。
作戦計画書としては、
火炎壁による敵の進軍の誘導と、水素ガス地雷による敵の漸減。
そして、堀の防衛線を軸にした敵の侵入防止と、侵入された場合の穴埋めについて、区画を定め、契約兵の担当を記載していた。
しかし、そこにはまだ、即席兵器での対応については触れられていなかった。
軍師デカルテは広場に作られた簡易的な壇上に登り話し出す。
「諸君、とうとう敵は動き出した」
「当初想定通り、南翼と北翼の両方から軍勢を送り、西門の制圧を図るものと思われる」
「現在確認されている限り、南翼に2千体以上の敵と、Sランク魔獣が2体、Aランク魔獣4体、そしてトロールの集団が4個」
「北翼に2千体以上の敵と、Sランク魔獣2体、トロール集団2個となっている」
それを聞いた各部隊の隊長は勝てる気がしない顔になっている。
反面、契約兵、すなわち、冒険者たちは腕に自信が有るため、それほど悲壮な感じは出していなかった。
デカルテは続ける。
「我々は彼我の戦力差を埋めるため、昨晩のうちに出来る範囲で即席兵器を一部部隊に配備している」
「まずは、防衛線に配備している火炎瓶部隊である」
「投げつけるだけで火炎を起こす兵器である」
「各隊の支援部隊として、南翼に15隊、北翼に5隊配備している」
「戦闘開始までに自分の区画に配置された隊と打ち合わせ、敵の集団を見つけたら積極的に呼び出して支援を依頼してほしい」
デカルテは一旦区切って周囲を見回す。
「そして2つ目の兵器、対トロール用の弓矢を製作した」
「敵は、トロールの集団が突破した後に、一般兵士を雪崩のように押し込み、要地を占領する作戦が想定される」
「特に防衛線での戦いでは動員兵にトロールを相手させることはほぼ不可能である」
「迅速に退避し、対トロール兵器を装備した弓兵か、契約兵を呼んでもらいたい」
「対トロール兵器の隊は、南翼に12隊、北翼に8隊配備している」
「こちらも自分の区画に配置された隊と打ち合わせを行っておいてほしい」
デカルテはまた言葉を区切る。
各隊の隊長クラスたちが頷く。
「あと、弩弓を使った支援攻撃兵器も実用化した」
「これは、遠距離の敵集団に撃ち込み、爆発した破片で敵複数にダメージを与えると言う物だ」
「ターゲットは、弩弓の指揮所が適切な目標を選び攻撃する」
「前線の諸君らには直接は関係ないが、敵を打ち減らすよう努力するつもりだ」
デカルテは再度、聴衆を見回す。
そして少し置いて口を開く。
「最後に、魔獣たちの相手だが、南翼は冒険者パーティー・ラックラン、そして」
「皆も噂を聞いてるだろう、森の守護者が討伐を行ってくれることになった」
その言葉に聴衆はざわつく。
デカルテはその騒ぎを手で制する。
「そして、北翼は、白銀騎士リセルゼ殿と、魔法騎士ジュブラ殿に討伐を行ってもらう」
再び、軍師デカルテはぐるっと聴衆を見回して言う。
「我々は少ない資源の中、最善と思われる防衛体制を構築した」
「味方の増援到着まで2日ほどの辛抱だ」
「それまで、なんとしても西門は守り切らないと、リシュターの未来は無い」
「そして、この準備状況を考えると、この戦いに勝つことは不可能なものでは無いと信じる!」
「希望を持って、我が町、リシュターを守り切ろうでは無いか!」
その言葉の後、軍師デカルテは敬礼をする。
広場に集まった指揮官たちも併せて敬礼をする。
契約兵たちも一部、軍隊経験を持つ者は敬礼をしたが、多くは敬礼していなかった。
「では、各員、当初の配置場所に向かってもらいたい」
「武運を祈る」
デカルテはそう言うと壇上を降りて行った。
話を聞いていた迅代も、自分の配置場所に向かおうと動き出す。
すると、冒険者パーティーのラックランのリーダー、サンパノが近づいて来た。
迅代もそれを認め、相対し、右手を差し出す。
相手も手を握ってきて握手する。
「森の守護者殿、お初にお目にかかります」
そう言いながらサンパノはパーティーメンバーを紹介する。
魔法士フィルスもその中に居た。
昨夜の負傷のダメージは完治していないようだが戦いには参加するつもりのようだった。
迅代はデカルテたちにしたものと同じ感じで自分の紹介を行った。
勢いがよさそうな戦士、グスタージは迅代の事を胡散臭そうに見ていたが。
迅代は自分の配置場所を説明し、魔獣を追い込んでくれれば支援をすると約束し、ラックランのメンバーたちとは別れた。
その後、ふと見ると、パーンが立っていた。
「おお、おはよう、どうしていたんだ?」
迅代の言葉にパーンは言う。
「おいおい、それはこっちのセリフだぜ、火炎瓶の訓練の後、お前さんが見つからないので探したんだぜ」
迅代は心配になって聞く。
「もしかして寝ていないのか?」
しかしパーンはあっけらかんと言う。
「へっ、自分の健康管理は自分の責任だ。しっかり寝させてはもらったぜ」
そう言いながら、右手のクロスボウを掲げて見せた。
「ああ、これは、店に飾ってあった」
迅代の言葉にパーンが言う。
「俺もちょっとは役立つかなと、ね」
「お前さんの横に付いて残敵掃討ぐらいはやってやるよ」
迅代はパーンの肩をポンと叩いて、配置位置に進みだした。




