「戦火の前の朝食」
軍師デカルテに誘われて、朝食をデカルテと一緒に摂る事となった。
一般兵士と一緒の食事を配給で貰おうと思っていた迅代だったが、それよりかは良い食事になるとの事で頂く事にした。
迅代とリォンリーネが座って待っていると、幹部用の給仕がやって来て、食事を置いていった。
暖かいミルク1杯とパンと牛肉の入った濃い目のスープ、そしてデザートととして、プチトマトのような外見のジューシーな甘い果物が3個が付いていた。
食事が来るとデカルテも席に着いて一緒に食べる。
「睡眠はとっていないのですよね?大丈夫ですか?」
迅代は食事をしながら徹夜でいるデカルテを気遣う。
「さすがに若い頃のようにはいきませんが、戦が目前ですので、このぐらいは平気ですよ」
デカルテは軽い感じで返す。
「それよりも、いかがでしたかな?睡眠圧縮ポーションのほうは?」
デカルテが昨晩の寝付き具合について聞く。
「それがですね、今朝はとても爽快なんです」
「短時間しか眠れませんでしたが、これは本物でした」
正直、迅代は錬金術師テリオシスの能力を疑っていたが、見直した。
「でも、あのじいさんは、わたしにくっ付いて来て鬱陶しいですよう」
リォンリーネは嫌そうな顔で文句を言う。
それを聞いてデカルテは苦笑いをする。
「では、今日の戦闘が一区切りついたら、わたしも試させてもらおう」
デカルテはそう言いながら、言葉を続ける。
「ところで、戦闘開始後のミードゥー殿の配置なのですが、西門に近い戦闘区画で、南側の強力な魔獣を撃退していただきたいのだが、どうだろうか?」
リシュター領地軍の命令系統上に迅代は含まれていない。
よって、要請の形でしか、配置や行動を指示できない建付けだった。
「ええ、それで大丈夫です」
「わたしはリシュター軍の役に立つために姿を現し、一緒に戦うと決めたのです」
「厳しい戦闘正面を受け持つことも覚悟しています」
迅代はデカルテの申し出が、想定していたものと同じだったことも有り、何の意見も言わずに受け入れた。
「大変痛み入ります」
軍師デカルテは礼を述べる。
そして、少し食べ物を口に運んだ後、言葉を続ける。
「ミードゥー殿は、なぜこれほどまでに、我がリシュター領の危機に尽力していただけるのでしょう」
「皇女殿下のご意志、それは聞きました」
「しかし、なかなか、ここまで身を犠牲にする事も出来ないものと思います」
デカルテの言葉に、迅代は答える。
「領主であるリシュター公の前で言った事の通りですよ」
「そして、わたしがここに呼ばれた理由でもあるので、運命として受け入れているのです」
迅代はそう言って、ミルクに口を付ける。
リォンリーネは何も言わずにちらりと迅代のほうを見て、スープを飲む。
軍師デカルテは少し小さな声で呟く。
「半年ほど前に皇都で行われたと言う、勇者召喚に関連されているのですかな?」
迅代はその言葉に頷きもせず、顔を伏せて口を開く。
「わたしの身元や素性に関しては、特殊部隊所属の者故、ご容赦ください」
そんな迅代の様子を知らぬふりで、リォンリーネはデザートの果物を口に運び、おいしい!という顔をする。
軍師デカルテは続ける。
「誤解していただきたく無いのですが、正体を暴いてどうのという事では無いのです」
「ただ、我々はあなたに感謝と正当な評価を示したいと思っているだけなのです」
「リシュターのために尽力してくれているあなたに」
迅代は口元を緩ませて言う。
「無論、わかっています」
そこに白銀騎士リセルゼと、オーパとサージョンの部下とで会議室に入って来る。
「おはよう、諸君!」
リセルゼの声はいつもに増して大きく、元気なようだった。
それを見たデカルテは問いかける。
「ミードゥー殿同様、しっかりと睡眠はとれたようですな」
その言葉にリセルゼは答える。
「うむ!、ぐっすり寝て起きた感覚ですな、あのポーション、なかなか使えますぞ!」
迅代達の食事も一区切りついた頃、敵の行軍が始まったとの連絡も有った。
そこで、軍師デカルテは、各部隊長、契約兵の代表、そして、幹部メンバーとを西門前線指揮所の前の広場に集める事にした。
今日の動き方や配置についての最終確認のために。




