「弩弓爆裂弾頭」
迅代は西門前線指揮所の横に張られた天幕の下で、数人の職人たちと弩弓の矢に工作を施していた。
弩弓の矢は6本あり、すでに5本が即席兵器としての工作が完了しているようだった。
「いかがですかな?ミードゥー殿」
そう声を掛けながら、軍師デカルテは迅代の様子をうかがう。
よく見ると、少し離れた机で、エルフっぽい女性が気を失った居るように突っ伏して寝ていた。
「ええ、順調です」
「これが最後の1本です。合計6本までしか作成できませんでした」
口を動かしながらも手も動かす。
弩弓の矢を真ん中より少し前で切り、直径2cm、長さ30cmほどの区間に爆発部分を作り込んでいた。
真ん中には撃発のための魔導コイルを仕掛け、そこから、爆発呪符をつなげる。
爆発呪符は短冊状になっているので、それをこの2cm径の爆発部分に巻き付け、留める。
その外側に、10cmほどの均一の長さに切った鉄棒を巻きつける。
簡単に松脂で止めた後、細めの紐で縛る。
鉄棒はどこかから持ってきた鉄柵をぶった切ったもののようで、均一な形では無かった。
それを10cm×3段で30cmほどの収まるよう、同じように縛り付ける。
最後に、先端から爆発部分と、後ろの羽根が付いた部分を、鉄の支柱を添え木のように何本かかまして結合し矢の状態に戻す、そんな形で作っていた。
ふと矢の先端に黄色いひらひらとした札のようなものが目に留まる。
白銀騎士リセルゼは興味を持つ。
「このひらひらとしたものは何でありますかな?」
手を伸ばそうとするリセルゼを、迅代は制止する。
「それは!、触らないで!」
「それを引き抜くと爆発する機構が動くようになるので」
それは安全装置のピンだった。
突然怒鳴られたので、リセルゼは驚いて手を引っ込める。
「そ、そうであったか、これは失礼いたした」
迅代も突然怒鳴ってしまったのを反省して言う。
「すみません。でも、爆発するとこの周囲に大被害がでるので・・・」
さらっと恐ろしい事を言われた気がしたリセルゼは、気を取り直して聞く。
「これはどう使う武器なのですかな?」
その質問に、迅代は最後の仕上げをしながら口を開く。
「弩弓によって敵の集団位置に撃ち込めば、爆発して15メルト※四方に鉄棒が飛び散る設計です」
※約9m
「運次第ですが、10~20体の敵にダメージを与えられるでしょう」
「これは水素ガス地雷と違って、任意の位置に撃ち込めます」
「使い勝手はこちらの方が良いでしょうね」
「ならばもっと量産できれば有効な武器になるのでは?」
リセルゼは素直な気持ちで聞く。
「無論そうですが・・・」
そう答えながら迅代は、倒れているエルフのような女性を親指で刺す。
「彼女の魔法力では6つの爆裂呪符が限界でした」
「色々と尽くしてくれたので、これ以上無理は言えません」
リセルゼとデカルテはなるほど、と、魔法呪符を見た。
そして魔法力を使い果たし、倒れているのだろうと理解した。
「そう言えば、ミードゥー殿、そなたにもそろそろ休んでいただく必要が有る」
軍師デカルテはそう言いながら小瓶を目の前に差し出す。
「今更ですが、安全性や実績は有るんですか?この睡眠圧縮ポーションは」
迅代は一応瓶を受け取りながら聞く。
軍師デカルテは答える。
「うむ、確かにわたしも不安になって錬金術師テリオシス殿に聞いたのです」
「そうすると、癇癪を起されて、飲んで証明すると言ってご自身で飲まれました」
その続きが気になり迅代は聞く。
「それで、どうだったのですか??」
デカルテは続ける。
「うむ、その直後に倒れられましてな、何事かと思えばぐっすりと寝ておられた」
「少なくとも自身で飲む程度には安全で、すぐに睡眠に入るのは間違い無さそうでしたな」
それを聞いた迅代もリセルゼも、眠れる事しかわかっていないんじゃ・・・とも思った。
不安そうな二人にデカルテは続ける。
「ご安心召され、必要な時間が来ればわたしが起こしますぞ」
「わたしは責任上今晩は寝ないつもりですのでな」
迅代もリセルゼも寝無いより寝たほうが良いか、と諦めて、ポーションを服用する事にした。




