「休養」
迅代は大事を取って、3日ほど静養する事となった。
模擬戦の結果の、引き分け、しかし違反判定の反則負け、というのは聞いた。
あの勇者ヴィンツに一撃を食らわせた、それは少し自信となった。
しかし、セレーニアに泣かれた手前、喜ばず、淡々とわかりました、とだけ答えた。
あと、ボーズギア皇子は、3勇者の勝利だけが欲しかったんだな、と今更に理解した。
もしかしたら、迅代のほうは負けようが危険が有ろうが、さほど気にされなかったのかもしれない、と思い出した。
無論、ボーズギア皇子はそのさらに上手を狙っていたのだが、これは国民が保護されるのが当たり前の「善良な現代日本人」の思考の限界かも知れなかった。
兵練場の医療室を出て、2日目以降は自室で療養する事とした。
セレーニアにも休暇を取るように言い、日に3度食事が待女によって運ばれる以外は、人に会わず、いろいろと思いをめぐらすことに時間を費やした。
まずは3勇者について。
一言で言ってバラバラだ。
それぞれが強大な力は持っている。
しかし、横連携は恐らく無いのだろう。
先頭に立つ、ヴィンツとザーリージャはターゲットの分担ぐらいはするのだろう。
だが、どちらが指示をすると言う訳でも無さそうだった。
そして、アリーチェは脆弱性を孕んでいた。
お付きの女性兵士だ。
彼女の判断が、アリーチェの行動にほぼ直結している。
彼女がもし倒れた時に、アリーチェが上手く機能するのだろうか?
またお付きの兵士は経験の浅い一介の兵士だ。誤った判断をすればどうなるだろう?
統制が取れない混乱が起きることが、容易に想像できた。
ただ、そのためだろう。この部隊には司令官が居る。
ヴィンツとザーリージャの統制と、アリーチェの脆弱性を分かったうえでの部隊運用が出来れば、それでも十分に効果を発揮するだろう。
そこはボーズギア皇子のお手並み拝見となるだろう。
そして迅代自身が受け持つ、スカウト部隊は、事前の進撃路の偵察や、敵戦力の情報収集、副次的には遊撃戦的な後方破壊などになるだろう。
まだ兵員の定数は決まっていないが、50名ほど居れば今の部隊をカバーできるだろう。
「ふう・・・」
少し声を出してみる。
連日、セレーニアと会話していたせいで、静寂が少し寂しくも感じる。
『召喚されてから、1か月近くが経過する頃か』
怒涛の1か月を少し思い返す。
『正しいと思って進んでいる今の道も、本当に正しいのかはわからない』
『ただ、俺に味方し、助けて・・・まあ、頼ってくれる人のために生きる』
『それしか、今の現状では選択が無いか』
異世界に召喚された迅代は、今となっては勇者らしく死ぬのならそれで良いと考えていた。
今のこの世界に馴染みも思い入れもない。
ただ、召喚した人たちとの縁以外に、もう迅代には何も無いのだから。




