「夕食兼状況報告会」
迅代達の居た会議室の長机に、城の料理係からパンとシチュー、そして、肉と野菜の盛り合わせが各員一皿づつが配られた。
その料理をまず食べつつ、デカルテは報告会を取り仕切る。
先の会議には居なかった、財務官と行政官もこの会議室に顔を出していた。
何故かその机には、錬金術師のテリオシスがちゃっかり座っている。
そして、今までどこに居たのか、領主の息子、ダイス・リシュターも列席していた。
「では、まずは食事を頂きましょう」
デカルテがそう言うと、各々、肉料理やパンを食べだす。
そして5分ほどした時に、デカルテは発言する。
「まずは、この席に居る方々に情報共有を含め、現状勧めている事柄を、食事をしながらで構わないので説明いたしましょう」
「大きな作戦方針としては、魔王軍の西門への総攻撃に備えて、リシュター領地軍は防衛線を張り、これを撃退する事を目指す」
「敵の見積もりは、門の南翼が6千、門の北翼は2千が現れると見積もっておる」
デカルテのその言葉に、前の会議に出席していなかった者は、感嘆の声を漏らす。
「それを迎え撃つのは、動員兵士3千、正規兵500強、契約兵300ほどとし、南北に均一に兵力を分担するとしてそれぞれ2千弱と想定しておる」
「数の上では2千弱だが、動員兵の多くは訓練すらまともに受けていない新兵であり、まともな戦闘能力を一夜漬けでは備えさせられない」
「そこで、西門から、西門防衛陣地までの約2クロメルト※に渡って、両翼に掘を作り、土嚢を使って急増の防御線を築城する」
※約1200m
「すなわち、2つ、のべ4クロメルト※分を、今晩一晩で構築する計画となる」
※約2400m
「これは土を掘る量を半分にし、後の半分は土嚢で高さを稼ぐことと、動員兵士全力で構築する事で、時間的には間に合う者と考えておる」
デカルテが一旦言葉を区切ったのを見て、行政官が質問する。
「聞く限りは南の防衛線を守り切るのは絶望的と見えるが・・・」
「動員兵主力の2千に対し、敵は正規軍6千では・・・」
「北に1千、南に3千など、兵力配置のバランスを考えた方が良いのではないか?」
その言葉にデカルテは言う。
「無論それは考えたが、北の2千対2千でもどう転ぶか分からない状況だ」
「そこで、まずは北は2千で固守してもらい、南は一度に相対する数を、なんとか3千以下に落とせないか策を検討中である」
デカルテが続けて言う。
「その南翼にはいくつか戦力バランスを均衡させる策を講じるつもりだ」
「まずは、水素ガス地雷という罠を仕掛け、一定数の敵を防衛線に到達前に減らす方法」
「そして、火炎瓶と言う個人の投擲武器によって、多少なりとも敵を防衛線到達前に減らす方法」
「これらを用いれば約300の敵を倒せると計画している」
「兵力配置に関しても、契約兵は南翼に200、来た翼に100とするつもりだ」
デカルテはここでも区切り、一同を見回す。
特に意見は無さそうなのでデカルテは続ける。
「そして敵が行動しやすい地形の場所に、油を敷いた堀を作り、敵が来れば火を放って一定時間、敵の行動を阻害する方法を取る」
「火炎壁と呼んでいるが、これで一定の兵力は直進で進軍できず、迂回する事になるだろう」
「だが、敵の指揮官が慎重で、迂回兵力が揃うまで攻撃を控えれば作戦は瓦解する」
「両翼の防衛線が破られ、機能しなくなると判断した時点で、作戦は中止する」
「その時は、西門と西側防衛陣地の近いほうに各兵員は撤退する」
ふう、とデカルテは息をつき、出席者の問いかける。
「今までの説明で何か質問は有るか?」
各席の間で感想を言い合う声がする。
「南側はかなり勝つことは難しい」「どれだけ敵を減らす対策が機能するのか」
など、否定的な声が聞かれた。
財務官が発言する。
「これでは西門の防衛にこだわるより、リシュター都市内で籠っていたほうが良いのではなかろうか?」
その言葉にデカルテは言う。
「もう直ぐ、移動を命じたリシュター領正規兵2千の増援が来ます」
「しかし、西門が通行不可になっていれば、合流は果たせず、各個撃破されるでしょう」
「動員兵士の3千という数を生かすにはこの作戦しかなく、西門の橋を破壊し、籠城すれば、食料と言うタイムリミットも出て来るでしょうな」
デカルテは財務官に向けて続ける。
「まずは2日、そのぐらいで2千の増援は到着するでしょう」
「そして、もう10日ほどすれば、他所の増援と皇国軍が来援するでしょう」
「この1~2日の踏ん張りで、リシュターが生き残る確率は大きく変わって来るのです」
この言葉に財務官は分かり申したとだけ言って引き下がった。
皆、食事はある程度終わり、熱いお茶と、ちょっとしたお菓子が出された。
デカルテは続ける。
「敵を阻止するための施策、まず、水素ガス地雷と火炎壁は設置場所を概ね決め、現在、施工班と、製造班で対応中だ」
「現状の予定では、3領域分の地雷設備として、高さが20リーグ※ほどの高さの格子状に組み合わせた木材を製造班で制作中だ」
※約12cm
「5メルト※四方の大きさで規格化して量産し、現場の堀の形に合わせて背敷き詰める構想で、数は間に合いそうだ」
「また、上にかぶせる布は、都市内の全洋服屋に協力してもらい、供出してもらった」
「これも数は問題無い」
「問題は火炎壁のための油だ」
「都市内の商店や家庭に供出を求めているが、まだ、数を確保できるか未知数だ」
そこで迅代が挙手する。
それを見たデカルテが発言を促す。
「もし、油が足りないようなら、干し草や薪などで嵩増しするしか無いでしょう」
その言葉にデカルテも同意する。
「では、干し草、薪なども供出を依頼しよう」
デカルテは近くの兵を呼び、指示を出す。
デカルテは迅代に向かい聞く。
「火炎瓶の製造のほうはどうですかな?」
迅代はパーンのほうを向いて促す。
実はパーンは偽名を決めていないのでどう呼ぶか迷っていた。
察しの良いパーンは説明を始める。
「火炎瓶は現在、50個ほど製造完了している」
「集めた人の作業も手馴れてきて、あと150は問題無く製造できるだろう」
パーンから引き取って迅代は言う。
「火炎瓶を投げる兵士は決めておいた方が良いと思います」
「南に15、北に5で10個づつ持たせましょう」
「そして、この20名には、一度訓練として実際に投げてみてもらいましょう」
デカルテはその言葉に応じる。
「確かにぶっつけで実戦よりはマシですかな」
そう言いながらデカルテは白銀騎士リセルゼのほうを見る。
「分かり申した。おい」
リセルゼは近くの伝令兵を呼び、各グループリーダに伝えて火炎瓶用の正規軍兵士20名を選抜して連れてくるように伝える。
その流れでデカルテはリセルゼに聞く。
「動員兵士のチーム分けと訓練はいかがですかな?」
その言葉にリセルゼは答える。
「ああ、チーム分けは完了、だいたい200チーム作った」
「模擬戦闘の訓練は1回のみ、今はみんな夕食中で、命令が有れば持ち場に展開し、堀を掘る」
その言葉に行政官は思い出したように言う。
「そう言えば、食糧袋ですが西門に集めてありますぞ」
「未使用の袋の数は、9600枚ほどであった」
その言葉にリセルゼは答える。
「おお、では使わせていただきますぞ」
十分かはともかく、当初の計画の通りの話を満たせる進捗ではあった。
 




