「錬金術師テリオシス」
連れてこられた錬金術師と言う者は、初老の男性だった。
名前はテリオシスというらしい。
10年ほど前にリシュター公爵に評価され、お抱え錬金術師として給金をもらっているのだと言う。
「なんじゃ?こんな年寄に戦争の真似事でもさせようという魂胆か?」
テリオシスは呼び出された会議室で憮然として言葉を発した。
どうやら城内の者たちには偏屈爺さんとして敬遠されているらしい。
「突然、お呼び立てして申し訳ありません。ですが事は一刻を争うのです」
迅代はテリオシスの前に進み出て言う。
テリオシスは眼前に立つ迅代をジロリと睨み、その胡散臭い格好にまず文句をつける。
「なんじゃい、このマスクをつけた変な男は、いつから城にこんな怪しい奴が出入りしておる」
迅代は少し気圧されるが、まずは説明を試みる。
「この姿は、身元を隠す必要がある故、申し訳ございません」
「それよりも、水素を精製できる手段が知りたくて、来てもらったのです」
迅代の言葉ににべもなく言う。
「水素を精製?そんなものは知らん」
「わしの専門は不老不死、それ以外は門外漢じゃわい」
そういうテリオシスに迅代は質問を変える。
「そ、それでは、強力な酸の液体を手に入れたいのですが、当ては有りますか?」
その言葉を聞いてテリオシスは迅代を睨みつける。
「酸であれば、何種類かの魔獣が吐く酸液なら当ては有るが・・・何に使うんじゃい」
迅代はテリオシスに言う。
「わたし達は今リシュターを包囲している魔王軍に対応するための方策を考えています」
「その一つが、水素を練成し、爆発させる兵器を作ろうとしています」
「その水素を作るために、適当な酸の液体が、ある程度の量、必要なのです」
「このままであれば、魔王軍にリシュターは占領されてしまうでしょう」
「テリオシスさんもリシュターには少なからず恩が有るはずでは無いですか?」
「リシュターを救うため、協力してください」
テリオシスは迅代を睨んだまま言う。
「リシュターへの恩とか恩着せがましい物言いは気に入らん」
迅代はその言葉にしまったと思った。
下手に脅したり恩を盾にしたりと言う方法は取るべきでは無かったと。
だが、テリオシスは迅代の向こう側に目を移し言った。
「しかし、その娘さん、あやつはお前さんの仲間かのう?」
同じくマスクをして心配そうに様子をうかがっているリォンリーネを見て言った。
「え、ええ、そうですが、何か?」
迅代は会話の飛躍に付いて行けず、とりあえず肯定だけした。
「いやほら、わしも年とは言え、まだまだ女性に興味が無い訳ではなくてのお」
「その娘さんが作業を手伝ってくれるなら、酸を売ってやるぐらいはしてやってもよいかなーとな」
テリオシスはデレた顔でリォンリーネをジロジロと眺めながら言う。
「テリオシスさん、そんな職権乱用は!」
迅代は嗜めようとするが、リォンリーネが横から口を出す。
「わかりましたよう、テリオシスさん、お手伝いしますよう」
迅代はその言葉にリォンリーネに聞く。
「だ、大丈夫ですか?そんなこと言って」
そういう迅代にリォンリーネは耳元でささやく。
「もしヘンな事をしてきたら、ピリっと電撃でも食らわせますよう」
そう言いながら、テリオシスとリォンリーネは会議室から出て行った。
酸の瓶を取って来てもらっている間、迅代はどのように「水素ガス地雷源」を作ろうか考えていた。
『水素を瓶詰めとかして小分けるより、いっそ、広く浅く掘った地面に水素を溜めて、敵が来たら爆破する形でどうだろう』
『だが、敵が踏み込んで直ぐに爆破すると効果が薄い』
『ある程度の敵が侵入した後に爆破出来れば効果的だろうが・・・』
『堀の上に板でも敷いて、多少踏んでも良いようにするか・・・』
『それとも、スノコか井桁のようなものを敷くほうが水素が堀全体にいきわたって良いか?』
『あと、水素は空気より軽い』
『堀の上には通気性が無い布などで被うとして』
『その上に軽く土を被せ、着火は火矢とするか・・・』
『堀の中に酸の入ったガラス瓶などを放置して、鉄を反応させていくとして、通気性が悪いと水素で膨らむかも知れない・・・』
『布に空気穴でも作っておくか?』
『いや、上により濃度の濃い水素が集まる』
『堀の下の空気を外に出すほうが、水素濃度と言う観点では有利か・・・』
迅代がそんな事を考えながら、10分ほど経過した頃。
兵士が3名手伝って酸の液体が入った大瓶を3つかかえて持って帰ってきた。
その後ろにリォンリーネとテリオシスが付いて来ていたが、テリオシスは髪が焦げて縮れていた。
「ジンダ、いえ、ミードゥーさん!まずは3瓶持ってきましたよう!」
リォンリーネは元気よく迅代に報告した。
ひと瓶で3リットルほどが入る瓶なので、合計9リットル有る計算になる。
これなら水素ガス地雷原をいくつか作れそうだった。
なお、後で聞いた話だがテリオシスがリォンリーネの尻を触って来たので、一発電撃を食らわせたとの事だった。




