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「評価」

兵練場に集まっていたギャラリーは、どのように反応すればよいか戸惑っていた。

ヴィンツ戦はザーリージャ戦より戦いの様子は把握できた。

問題は、目の前に有る風景は、勝つはずのほうの勇者が倒されたように見えているという事だった。


判定員、セレーニア、ヒーラー隊が2人に駆け寄る。


判定員が見る限り、ヴィンツは戦闘不能。

迅代は、これも戦闘不能と言うものだった。


「両者戦闘不能!引き分けとする!」

判定員の声に、ボーズギア皇子が怒りの形相で席を立ち、ギャラリーはざわざわと騒がしくなっている。


ヴィンツはヒーラー隊の回復魔法ですぐに正気を取り戻した。

迅代は、回復魔法で治療はしたが意識を取り戻さず、医療室に運ばれることとなった。


ボーズギア皇子は怒りの表情で判定員を壇上に呼び寄せる。

判定員の評価では迅代が魔法を放った時に失敗し暴走したのだろうという見立てだった。

魔法が暴走した場合は、通常の術式より威力が出る反面、術者は魔力を制御できず、魔力切れを起こすと言う。

新人の魔法士が勢い勇んでこういう事を起こすらしい。


「なるほどなるほど」

ボーズギア皇子は目が吊り上がった状態で、判定員の説明を殊勝に話を聞いているようであるが、内心は別の事を考えていた。

『この判定員め、うかつな判定をしおって、次の異動で飛ばしてやる』と


「では、ジンダイ殿は未熟な魔法を暴走させ、模擬戦でもあるにも関わらず危険な技を仕掛けた、という事であるな」

判定員は「え?」という顔をしたが、ボーズギア皇子は続ける。

「わかった、ご苦労であった下がってよいぞ」

「・・・」判定員は何か言いたげであったが、壇上を降りて行った。


ギャラリーは未だにざわついている。ボーズギア皇子は壇上の席を立ち、言う。

「聞け、皆の者よ」

「今回のヴィンツ殿とジンダイ殿の模擬戦は、引き分けとなったものであるが、魔王軍討伐部隊の隊長として、ジンダイ殿の反則負けとの判定を下す」


ギャラリーのざわつきは増すが、ボーズギア皇子は続ける。

「模擬戦であるからには安全には配慮せねばなるまい。また、実戦で使えないような戦闘方法や戦術など意味が無い」

「ジンダイ殿は未熟な魔法を失敗したばかりか暴走させ、自分諸共ヴィンツ殿を倒すという危険な行為に出た」

「この模擬戦を主宰する者として、それは看過できない」

「よって、この戦い、ヴィンツ殿勝利とする」


これを聞いていた、近衛隊第三部隊隊長のドーズは言った。

「はー、ひどいね。昨日の第二戦が安全に配慮されていたのか?」

近衛隊第二部隊隊長のクレファンスが応える。

「いや、ザーリージャ様の攻撃は殺気に満ちていたらかなあ」

「もっとも寸止めの名人なのかも知れないが・・・」

ドーズが言う。

「とは言え、役立たずという噂の勇者様に、期待の勇者様が土を付けられる訳にもいかないだろうがな」

クレファンスは少し周囲を気にして言う。

「大体、こんな大きなイベントにした誰かさんが悪いだろ」

ドーズは声を潜めて。

「お、おい、さすがに言い過ぎだ。まあ、権力だけで物事動かしてきたから想定外に弱いんだろうが、おっと、言い過ぎ」

ふとドーズは真面目な顔で言う。

「しかし、あの魔法の失敗が、もし自分の意思による戦術なんだとすれば、ジンダイ様は少しヤバいやつなのかもしれない」

クレファンスが言う。

「ああ、勝利に傾倒するあまり、自分の安全を二の次に置いてしまう。言わば死にたがりによくある傾向だな」


迅代には魔法の練習をしているときに、変な感覚にとらわれることが有った。

魔法の術式を自分の脳内に投影し、発現のワードを言う。

それで魔法が発現し効果を表すが、術式投影の時のすみっこに黒い霞が気になる事が有る。


先生であるセレーニアには、術式を明確に投影しろと言われるのでそうするのだが、たまに現れる霞。

これが何なのか、セレーニアに聞いてみたが、セレーニア自身には経験が無く、わからないと言う。

一度、霞がかかった先の内容をよく見ようとしたことが有った。

するとその先は奈落のように深く、どこまでも続いているような感覚がした。

吸い込まれるような感覚を感じ、これは危険と思い、それ以上は追及しなかった。

だが、これが新人が良く起こす魔力暴走のトリガーなのではないかと考えていた。

あの先に落ちていくことで、魔力が全開放されるのかもしれない。そんな仮説を立てていた。


そして、ヴィンツ戦前日にセレーニアに魔術暴走や制御解除の事を聞いたのは、やはり戦術として使ってみる目が有るか考えるためだった。

もし役立たずの勇者として迅代自身が、セレーニアやクロスフィニア皇女に負担をかけているのだとすると申し訳ない。

ただ、そういう気持ちからだった。


そして戦いでは上手く発動できた。

ヴィンツにもダメージを与えた手応えは感じていた。

その後は気を失っていてわからないのだが。


兵練場の医務室で目を覚ますと、心配そうな顔をしたセレーニアが居た。

今日はベットを覗き込んでいたらしい。

「よかった、気づきましたね、ジンダイ様」

それを見るや、魔法医療士の先生を呼びに行った。


魔法医療士に術式を施され、いくつかの問診を受けた。

魔法医療士によれば、症状は軽度なので、ここで1日寝ていれば後遺症も無いでしょう、と言って去って行った。


迅代ははやく模擬戦の結果が聞きたくて仕方がなかった。

あの一撃はどれぐらいの効果が有ったのかと。

セレーニアに結果を聞くと、まず、話が有ると言われた。


「はあ、何でしょう?」

間抜けな感じで迅代がセレーニアに尋ねる。


「魔力暴走はわざとやりましたね?」

迅代はその話か、と思い、少しバツが悪い気持ちになった。

「す、すみません。実は魔力暴走の方法はなんとなくわかっていたので・・・」

セレーニアは真剣に怒っていた。

「魔力暴走はどんな結果を生むか解りません。廃人になったり、神経に支障が出たり、半身不随になったり」

「ジンダイ様には勝つためとは言え、そんな方法を取ってほしくないんです」

セレーニアの瞳が潤む。


セレーニアは迅代を戦わせ皇国が救われるようにする立場。

ドライに言えば勇者が死んでも魔王軍が滅びればそれで良い。

だが、ひとりの人として心配してくれている、セレーニアの気持ちは伝わってきた。

「セレーニアさん、わかりました。私は命を懸けて戦います。でも、自分を犠牲にするような戦い方はしないようにします」


セレーニアは少し涙を湛て言う。

「申し訳ございません。一介の従者が出すぎた口を・・・」

セレーニアがハンカチを出し自分の涙を拭う。

「な、泣くつもりなんかなかったんです、申し訳ございません。ちょっと感情が高ぶってしまって・・・」


セレーニアのほっとしたような泣き顔を見ながら、迅代は考えていた。

『そうは言ったが、今の自分は決め手がない勇者だ』

『もし、自分の命と交換しても使う価値のある場面に遭遇したなら、魔力暴走を起こすことは選択肢に入れよう』

そう考えていた。

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