「動員兵士の訓練」
白銀騎士リセルゼは部下の、オーパ、サージョン、そして信頼の置ける隊長クラスの領地軍兵士に頼んで、動員兵士のチームの教育を行う事とした。
教育官を10名、だいたい1グループ300名の動員兵士を割り当て、まずは装備を割り当てていった。
現在ある兵器の在庫上、槍の1500がまともに割り当てられる武器と言えるものだった。
後は、弓の経験があるものは別途に抽出し、弓兵として使えるか判断する事にした。
そして、それ以外の兵員には、シャベルか棍棒を武器として与える事にした。
しかし、早速、シャベルや棍棒を与えられた「兵士」たちは、口々に不満を言い出した。
「命を懸けて戦うのに、槍の一本も持たせてもらえないのか!?」
「どうせ俺っちは人の盾になって死んで攻撃を防げと言われるんだよ」
「魔物を相手に戦うなんて俺は出来ない、すぐに死んじまうんだ」
もっともだった。
十分な訓練どころか、大多数は訓練すらしていない者を兵士として扱うのだ。
元々に無理が有った。
しかし、白銀騎士リセルゼは、動員兵たちが言うままに、役立たずで置いておくわけにはいかない。
リセルゼは大声で叫ぶ。
「兵士たちよ、聞け!、わたしは白銀騎士リセルゼである!!」
白銀騎士の言葉に、口々に不平不満を言っていた者たちが沈黙し、注目する。
白銀騎士の名前は当然、リシュターの街の人は言うに及ばず、周辺の村にも知れ渡っている。
リセルゼは十分に注目を集めた事を確認し、言葉を続ける。
「これから我々は、魔王軍の部隊と戦う事になる」
「魔王軍の部隊は数の上で優勢なうえ、個々の力も諸君らを凌駕するだろう」
「しかし、である」
「我が領地軍も、無為無策に諸君らの命を浪費しようとは考えていない!」
「我々は、諸君らなりに戦い、リシュターを守ることが出来る方策を考え、この戦いに臨む」
リセルゼは一拍おいて、動員兵士たちを見回す。
まだ兵士たちの瞳は絶望の色を持っている。
「諸君らには生き残り、粘り強く、魔王軍の軍勢を食い止めてもらう任務を果たしてもらう」
「死ぬことではない、生きて、リシュターを守るために戦うのだ」
その言葉を聞いても兵士たちは希望を持てない顔をしている。
リセルゼは続ける。
「諸君らの武器は、槍、もしくは、シャベル、棍棒としているのは理由がある」
「槍は突くだけ、シャベル、棍棒は殴るだけ、と非常に攻撃方法がシンプルだ」
「これであれば、訓練を積むことなく、ある程度は使いこなすことが出来るだろう」
「そして、その攻撃で相手の息の根を止める事を期待していない」
「これから我々は堀を掘って敵が簡単に侵攻できないようにし、その堀に敵を追い落とす事に集中する」
「そういう戦い方をしてもらう」
「息の根を止めるのは、正規兵の役目だ」
「この戦いでは、どれだけ諸君らが粘って生き残り、持ち場を守るかが成否を分ける」
「蛮勇は要らない、相手を突き落とせ、それだけだ」
また、リセルゼは動員兵たちを見回す。
やはり悲壮な表情は消えない、後は、訓練で体を動かし、少しでもやり方を覚えてもらう事だと考えた。
「では、各教官に従い、訓練を開始してくれ!」
リセルゼの言葉に各教官が自分たちのグループに訓練の仕方を教えだす。
槍を与えられた兵士は、腰を入れた突きを訓練する。
穂先には刃物が付いているが、生半可な攻撃では逆襲されたり、刺した後、引き抜けなかったりする危険が有った。
それに引き換え、シャベルや棍棒の兵士は、リーチを意識して殴る、振り回すで良いので、簡単だった。
最初は不満を言っていた、シャベルや棍棒の兵士だったが、意外と自分の手に馴染むため、自分の戦い方をイメージしやすく自信を付けているようだった。
そしてチーム決めが終わった順に、現場の再現として訓練場に堀を掘り、土嚢代わりの食料袋を積んだ模擬戦場で、自分が戦うイメージを順番に付けさせていった。
それでも、3千名居るので、順番に回して1度だけしか模擬戦闘は出来なかった。
そこにはリセルゼが付いて監督し、気になる点を助言していった。
白銀騎士リセルゼはこの状況を見て考えた。
確かにシンプルな戦い方で教えるのは今の状況では最善策だと思った。
しかし、やはり、あまりに訓練期間が足りないとも感じた。
この3千名の即席兵士が会戦後に、どれほど生き残っているのかと。




