「西門防御線」
動員兵士の戦い方について、更に意見が交わされる。
「あまり武器を持たせて敵を打ち減らす事を期待するより、生存率を高めて数を減らさない戦い方を考えるほうが良いと思います」
迅代は無闇な戦闘行動は動員兵士を消耗するだけだと言う考えを述べる。
その言葉に軍師デカルテは聞く。
「例えば、どういう事でしょうかな?」
迅代は思いつく考えを述べる。
「例えば、動員兵士には下手に刀剣を持たせるより、大楯のようなものを持たせて防衛線の堀に敵を押し落とす事に専念させるとか」
「槍で突いても追い落とすのが目的で、トドメは正規兵に任せるとかです」
「なんなら槍が足りなければ長い目の棒でもいい」
「素人が兵士相手に命を取りに行くのは難しい」
「有利な立ち位置で少しづつダメージを与え、正規兵や、契約兵にトドメを差してもらう、そのぐらいのほうが良いと思います」
あと、敵の密集地に堀の後方から火炎瓶を投げつけるのも効果的だと思ったが、この場では言わなかった。
「うむ・・・」
軍師デカルテは、そのような戦術を取ったことが無く、判断に悩んでいるようだった。
迅代は続ける。
「ですが、防衛線の堀の上が有利とは言え、素人兵の防衛、必ず敵に突破されるでしょう」
「これに備えて、防衛線を突破した敵を即、押し戻し穴をふさぐ救援用の戦闘部隊」
「それから少し高い足場を作って、目立つ敵を遠距離攻撃する弓兵部隊の2つを要所ごとに配置する」
「これだけ用意すれば敵の数が2倍程度でもそこそこ抑え込めると思います」
「だたし、対抗できるのは、一般的な、ゴブリン、コボルド、それと、なんとか、オーク相手の場合ですが」
「ミノタウロスやオーガなど戦士級の敵が現れれば、契約兵のチームに任せるしか無いでしょう」
「それとトロールは別の対処法が必要と思いますがね」
一息ついて、迅代は最後に一言言った。
「もし、西門を防衛するなら、このような形でしか今は戦えないと思います」
少しの沈黙の後、白銀騎士リセルゼが口を開く。
「確かに戦闘経験のほぼ無い動員兵士3千名を有効に使うにはこの戦術が良いのかも知れない」
「それに西門を固守できなければ、第一陣の増援部隊をも有効に使うことが出来なくなってしまうでしょう」
「我が領の招集した兵士は2千、もし、完全に包囲されれば、包囲を突破するのは難しい」
「西門が守れていれば、食料も調達出来、増援部隊との合流も出来る」
「よりリシュターが生き残れる確率が上がりますな」
その言葉に軍務官も同意を示す。
リシュター領主の息子、ダイス・リシュターは考えるような顔をしていたが、何も言わなかった。
軍師デカルテが口を開く。
「今の状態では時間はとても貴重だ」
「堀を作る作戦なら今から計画を立て、出動命令も出さねばならん」
「何もしないのが一番の愚策と考える」
「ミードゥー殿の提案が最も動員兵士を有効に活用できる案と判断したが、各位、ご意見はございませんかな?」
デカルテの言葉に異論を言うものは無く、頷いて応えた。
軍務官が言う。
「では、食料袋を行政官に言って調達いたします」
「それと、シャベルがどれだけ調達できるかですな」
「市中の道具屋と、一般家庭からも供出を呼びかけよう」
デカルテは頷いて言う。
「では、わたしは堀をどう作るか計画を立てよう」
「ミードゥー殿、御助言願えるかな?」
迅代は頷く。
「わたしは何もする事が無いという事か?」
白銀騎士リセルゼは不満そうな顔で言う。
そこで軍師デカルテは言う。
「では、防衛チームの編成をお願いできますかな?」
「契約兵は機動攻撃のチーム、正規兵は、弓兵のチームと、動員兵を加えた防衛部隊のチーム」
「防衛部隊のチームは・・・正規兵2~3に動員兵6という割合で500チームほど作ってみましょう」
「そしてチームでの行動のための、軽い訓練も行っていただけるとなお良いですな」
「おう、分かり申した」
白銀騎士リセルゼは少し張り切っているようだった。
「では、また夕刻にここに集まって、仕事の進み具合を話し合いましょうぞ」
軍師デカルテがそう告げると、各員はそれぞれの仕事にかかって行った。




