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「領主との謁見」

魔王軍が包囲しつつあるリシュターでは、4つある壁門のうち、東、南東の門には大部隊が侵攻し、戦う前に防衛態勢に移行した。

すなわち、門に渡る橋を上げて、堀と防護壁で防衛する体制へと移行していた。


そして、北東門には、東門の魔王軍兵力の一部が向かったが、これはリシュター領地軍が敵戦力の漸減を狙い攻撃を仕掛けた。

しかし、危うく壁門から強力な魔獣に侵入されそうになり、「森の守護者」に助けられて、こちらも防衛態勢に移行した。

まだ各門の弩弓は健在で、防御戦闘区画も損害は受けていなかった。


そして現在は西門のみが通行可能であり、魔王軍の圧力を抑えて補給路として確保されていた。

しかし、魔王軍がいつ西門に軍勢を差し向けるか分からない状況で、いつまでこの補給路が維持できるか分からない状況だった。


そんな情勢の中、森の守護者=迅代は、リシュター領主、ダノン・リシュター公爵との面会に招待された。

迅代は、クロスフィニア皇女創設の、皇国遺跡調査室のリシュター分室の職員と言う事になっている。

そこで、分室長である、皇国の官僚、ナナギリ氏と共に、リシュター領主の居城を訪れた。


ナナギリは皇国の内務部の女性官僚で、地方の遺跡を研究する学者でもあった。

年齢は40代の独身で、早婚が多い皇国ではめずらしいタイプの官僚だった。


ナナギリは領主との謁見室に向かう道すがら、迅代に話しかけて来た。

「その、わたし、ミードゥーさん?の事を全く知らないのですが、大丈夫でしょうか?」

ナナギリはおどおどとした表情で、どういう関係性と領主に説明すれば良いか分からないようだった。


迅代はにマスクに隠れているがにこやかな表情で告げる。

「ナナギリさんはわたしの事について何を聞かれても、特殊部隊員の情報は秘密にするようにと皇女殿下から仰せつかっている、と言えば良いですよ」

「後の主な交渉事はわたしのほうで受け持ちますので」


ナナギリは頷いたが、それでも不安なのか、落ち付かない様子だった。


案内されて謁見室に入るナナギリと迅代。

その部屋には、中央奥に大き目の長椅子に、でっぷりとした体形を委ねた男が居た。

『あれがダノン・リシュター殿か』

迅代はその他のメンバーにも目を配る。

官僚らしき男が数名、若い貴族の風の男、スキンヘッドの老人、そして、白銀騎士リセルゼ。


まずは参上した側から挨拶をする。

「ご機嫌麗しく、リシュター様、着任御挨拶以来でございますね」

ナナギリが礼をし挨拶をする。

リシュター公爵は「うむ」と言って右手を少し上げた。


「こちらは、我が皇国遺跡調査室の護衛部の職員、偽名では有りますが、ミードゥーとお申します」

ナナギリに紹介された迅代は挨拶をする。

「皇女殿下の命により本当の素性をお知らせ出来ないご無礼をお許しください」

「また、顔のマスクも外せない事、お許し願います」

「ここではミードゥーと呼ばれております」

そう言ってカチっとした礼をする。


リシュター公爵は細い目を見開いて言う。

「そちが、森の守護者という事で良いのかな?」

その言葉に迅代は頷いて言う。

「御意にございます」

リシュター公爵はそれを聞くと、うむと頷き、眠そうな顔になる。


そして、この場の出席者が挨拶を行う。

官僚らしき者は、行政官、財務官、軍務官との事だった。

スキンヘッドの老人は軍師との事だった。

リシュターほどの規模になると軍事にも力を入れているのかと、迅代は感心した。

若い貴族風の男はリシュター公爵の息子で、白銀騎士リセルゼは既に知った仲だった。


紹介が終わった後、軍師デカルテがリシュター公爵のほうに目配せをする。

リシュター公爵はくつろいだ姿勢を変えないまま、口を開く。

「まずは、ミードゥー殿、リシュターの危機に手助けしてもらい、感謝しておりますぞよ」

口調はゆっくりで柔和な感じを思わせる口調だった。


「いえ、皇国領土を侵す魔王軍の勝手な振る舞いを黙って見過ごすわけにはまいりません」

「皇女殿下も魔王軍の撃退を切に願っておられますので、目的が一致しているものと存じます」

迅代はかしこまって答える。


リシュター公爵は頷いて続ける。

「北東門の戦い以前にも、森の守護者として数々の魔獣を討伐して回っていたのも、ミードゥー殿と考えて良いのかや?」


「その通りでございます」

迅代はかしこまって答える。

「では、我が領の住民一同に成り代わり、礼をし褒賞を与えたいと思うぞよ」


リシュター公爵の言葉に迅代は答える。

「いえ、わたしは皇女殿下のご意志で働く者、皇女殿下のご意志に沿うものである限り、礼には及びません」


リシュター公爵は面白くないような顔になる。

「それでは困るのお。もし皇女殿下がリシュターに未来無しとご判断されれば、見捨てられてしまうのかや?」


迅代はしっかりとした言葉で否定した。

「わたしは皇女殿下は決してリシュターを見捨てるようなお考えには至らないと確信しています」

「皇女殿下はすべての皇国民を愛していらっしゃる。それはリシュターの民とて同じことにございます」


リシュター公爵は肩肘をついて考える素振りを見せる。

リシュター公爵は商人たちとの交渉事を優位に運ぶことで領土を富ませてきた自負が有った。

その交渉術は主に相手の考えを上回る財力で相手の気持ちを砕くことだった。

しかも自分のためだけの話にせず、相手の事も考えて中間点を探るような交渉事を良しとしていた。

そして苦手な交渉相手は、忠義や信義を振りかざし、自分の損を厭わない者だった。

無論、軍師デカルテや、白銀騎士リセルゼからは忠義や信義も感じていて、信頼もしていた。

だが、その前のベースとして、領主としての自分の影響力があってこそだと考えるタイプだった。


「ミードゥー殿よ、そちは信頼とはなんと心得るのかや?」

リシュター公爵は鋭くなった目で迅代を見据えて聞いた。

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