「勝敗」
今日のヴィンツの装備は、普段と変わらない戦闘時装備のようだった。
まずは立派なプレートアーマーが目立つ。
色は独特の薄青色で、各パーツの淵には赤や金の装飾模様が彫られており、一見して途轍もない高級品であることが伺えた。
これは、皇国の武器庫に納められていたヴィンツのサイズに合う最も高スペックなものが選ばれたものだった。
頭部は本来フルフェイスのアーマーが付属しているのだが、視界の取れるヘルメット型のものに変えていた。
そしてそこから覗く顔は、正に武人。眉は力強く、眼光は鋭く、彫りは深い。
そして国宝剣「ガブルジーン」
元々はきらびやかな装飾が施された鞘に収まっていたが、ヴィンツの要求で質素な鞘に変えられていた。
正に尊敬されるべき勇者の姿であり、実用重視も忘れてはいないものだった。
泥ガエルのような迅代の恰好とは全く対極であった。
ボーズギア皇子は壇上の椅子を立ち、周囲の人たちに宣言する。
「この勇者殿たちの模擬戦も最終日となった」
「勇者ジンダイ殿は2敗といささか残念な結果となっているが」
「しかし、それは勝った勇者殿が飛び抜けた実力を持っていたまでの事。気を落とす事は無い」
「では、双方、全力で戦ってもらいたい」
ボーズギアの言葉が終わり、魔法保護に作業も経て、判定官が前に出て来る。
「では、模擬戦始め!」
迅代が動く!
追従するようにヴィンツも動く。
獲物を追い詰めるハンターのように、距離を取られないようけん制しつつ、徐々に追い詰めるように。
間合いが2~3mほどに近づいた時点で、ヴィンツの姿が消える。
いや、迅代を上回る加速をして迅代との距離を詰めたのだ。
いつの間にか1mほどの距離に接近している。
そして漆黒のロングロードを右手のみで真横に居合抜きのように、斬りかかる。
「ガシッ!」
足を止め、メインナイフの模造刀で迅代が受けた。
そして、まさに斬るヴィンツ。
ロングソードを深く長く滑らせ、模造刀に走らせていく。
「ギーーーーーー!」それに合わせて迅代の下腹付近で派手に火花が散る。
『持たないか??』
迅代はロングソードの刃を,模造刀で抑えつつも、ミリ単位で徐々に近づいてきているのを感じる。
そう思った後、ロングソードの刀身が迅代の視界左側を振り切る。
ほっとする迅代。
しかし模造刀をチラ見して驚く。
刀身部分は幅5cmほど有ったのだが、縦にくの字に口を開けて曲がり、あと1cmほどで完全に切断される所だった。
しかしヴィンツは余裕を与えてはくれない。
今度は返す刀で左から斬りかかる。
メインナイフはもう曲がった所より先では防ぎきれない。
イチかバチか、先ほど斬られた部分より根元で刀身を受ける!
「ガシッ!」
「ギーーーーーー!」
また派手に火花が散る。
模造刀の持ち手、迅代の小指の1cmほど下で漆黒の刀身が火花を散らして刀を削っている。
『危うく小指が飛ぶところだった』
初手の連続の2撃をなんとか抑えることが出来た。
迅代は一歩引き、右手に持っていた、ぐにゃぐにゃになった模造刀を捨てた。
そして今度は左手でサブナイフを抜く。
ヴィンツはもう次のアクションに入っている。
今度は両手で剣を持ち、振り上げ、上段からの傘がけで斬りかかる。
これで決める気のようだった。
サブナイフで頭の上から来る斬撃を受ける構えをする迅代。
ヴィンツはそんなナイフなども構わず、一緒に切ってしまう目算だろう。
「ガガガガッ!」迅代の頭の上で派手な火花が散る。
一撃目を受けたサブナイフの刃の半分程にヴィンツの剣の刀身が食い込む。
同時に迅代が動く。
「サンダーボルト!」
迅代の右手に電光が走る。
ヴィンツの目に動揺の色が一瞬走る。
しかし「ままよ」と押し切る気だ。勢いは変わっていない。
しかし、魔法は発動せず、電光が収まる。
不発か?と思われた瞬間、ヴィンツのプレートメイルが電光で光る。
「グフッ!」
ヴィンツが声を上げる。
その電光は次第に二人の周囲に多数生まれ、二人を球状に包み込む。
「ガガガガガガガガッ!!」
強力な電撃でヴィンツが昏倒する。
ロングソードの刀身は力を失い、プレートメイルを着た巨体が迅代と共に倒れ込んだ。




