「攻撃開始指示」
ほぼ無傷のアースドラゴン6体が隊列をなして、北東門に近付いて来る。
交戦開始から5分で、彼我の距離は500m以下にまで縮まった。
これ以上接近を許せば、壁門から都市内に侵入されてしまうリスクが生じる。
10m弱の長さが有る、水堀にかかる跳ね上げ式の橋は、人力の巻き上げ式のため、通行できないように上げるのにも時間がかかる。
今回は非常時のため、橋を巻き上げる縄に馬2頭を繋いでスピードアップは図るが、それでも数分は必要だった。
門からの突撃指示を今かと待っているアースドラゴンの攻撃チームもじれて来だした。
「もう飛び出してもエエんかいな?」
Aクラスの冒険者パーティー「ラックラン」のオフェンスである、戦士上がりの冒険者グスタージがわざと大きな声で言う。
「ラックラン」のメンバーは総勢6名で、オフェンスが4人、支援魔法士が2人という攻撃重視の編成だった。
そしてメンバー全員が腕に覚えが有り、今回の戦いで稼ぎたくてうずうずしているようだ。
「ふん、もう少し品を身に付けるほうが良いぞ」
グスタージの言葉を不快に感じた、魔法騎士ジュブラが何もない空間に向かって言う。
だが自分に言われたものと決めつけてグスタージは、魔法騎士ジュブラのほうを向き言い放つ。
「あー?ナヨっちい成りで騎士様とは言い過ぎのジュブラさんは怖くて震えてるんか?」
ジュブラはグスタージの言葉に目を瞑って無視しているが、顔は不快な表情を示していた。
「グスタージ、戦闘開始前だぞ、控えろ」
「それからジュブラ殿、無理に絡まんでも良いだろう」
白銀騎士リセルゼは、2人の言い合いがエスカレートしないよう割って入った。
「ふん」
グスタージは不満を抑えて矛を収めた。
ジュブラのほうは表情は不快そうなままで、黙っていた。
軍隊組織の属さない、冒険者パティ―「ラックラン」と、魔法騎士ジュブラは、領主の名代として軍師デカルテが雇ったものだった。
だが、現場ではこれらを統制する者がいない。
白銀騎士リセルゼもやりたくないのだが、仕方なく、領主の名代として指示を出す役目をしていた。
そうこうしている内に、先陣を切るリシュター領地軍の精鋭部隊「ソルティアゴルド」の様子が騒がしくなってきた。
ソルティアゴルドは50人規模の部隊で、個々人が高い戦闘力を持ち、敵後方に取り残されても生存できる技術を叩きこまれていた。
「いよいよ出撃指示か?」
白銀騎士リセルゼはじれてきている面々に聞こえるように言った。
その声を聞いて、ラックランのメンバーは身を乗り出して、突撃の備える。
魔法騎士ジュブラも目を開いた。
そして白銀騎士リセルゼと部下のオーパとサージョンは馬に乗り込み態勢を整える。
壁門の出口付近で兵士が赤色の旗を上げて言った。
「攻撃開始!敵距離800メルト※!、アースドラゴン6体!」
※約480m
その掛け声と共に「ソルティアゴルド」の兵員は10名ほどのチームで壁門を駆け抜けていく。
全5チームが壁門を超えた後、白銀騎士リセルゼは大剣ダイアライアを天にかざし叫ぶ。
「突撃するぞ!続け!!」
そう言ってリセルゼは馬足を駆け足にして前進する。
その後ろをオーパとサージョンの馬も続く。
冒険者パーティー「ラックラン」のメンバーも駆け足で壁門を通過していく。
だが、魔法騎士ジュブラはマイペースで歩いて壁門に向かって行った。
北東の壁門を襲う魔王軍部隊に対する、本格的な攻撃行動が開始されたのだった。




