「大規模侵攻開始」
城塞都市リシュター南東側防衛陣地。
この防衛陣地は、東門側程規模は大きくないが、リシュターの南東側壁門に続く道の防衛のために作られていた。
この防衛陣地の最大の砦、パラセウム砦で兵士たちはいつものように警戒についていた。
そろそろ昼に差し掛かるが、この道を通過したのは隊商が1組だけだった。
リシュターが魔王軍に攻められるかもしれないという噂で、住民は交易等も控えているようだった。
かといって簡単に避難をする訳でも無い。
まだ様子を見ている状態といった所だった。
この砦で警戒していた兵士が、人がひとり、森のほうから走って向かって来るのに気づいた。
「おい、誰かが走って向かってきているぞ」
兵士は仲間たちに伝え、様子を見に行ってもらう事にした。
だが、その兵士は、続けて、人が走り出て来た森が騒がしく揺れているのが見える。
「なんだ?地揺れなのか?」
地震かと思い周囲を見回す。
「ま、魔獣だ!」
別の兵士が森のほうを指さし叫ぶ。
慌てて砦で警戒していた兵士全員が森のほうに注目する。
森の木々を押し分けて、大型の魔獣が2体姿を現した。
Sクラスの魔獣、ヒドラの類ようだ。
だが、2体とも、通常9つあるという頭は4つだったが、大きさはかなりの大きく通常の歩く姿勢で10mほどは有りそうだった。
そして、ヒドラの後から、人型の魔物は続々と姿を現す。
オークを中心としてコボルド、ゴブリンなどの魔物の戦闘グループを組んで進撃してきている。
ざっと見た所で100体はおり、まだ続々と森から出てきていた。
砦の指揮官は彼我の戦力差が大きいと見て早々にリシュターへの撤退を決めた。
これは、当初からの作戦計画に基づいており、予定されたものだった。
指揮官は「大規模な敵襲」を知らせる狼煙を上げるように指示する。
しかし、そんな時に、砦を大規模な雷が突然襲った。
「ガガガン!!」
「ガガガン!!」
「ガガガン!!」
3連続で砦に落ちた雷は、砦の展望辺りに居た兵士たちを瞬時に黒焦げにした。
そして砦の中に居た兵士も、多数が雷によるヤケドやショック症状により、一瞬で沈黙させられてしまった。
パラセウム砦は瞬く間に無力化されてしまったのだった。
これは、魔王軍の魔法攻撃部隊によるものだった。
ヒドラの後ろに付いて、リッチらしきアンデッドの魔物が付いていて、魔法攻撃を担当しているようだった。
そしてリッチは周囲を複数のレイスを漂わせ、護衛させているようだった。
同時に先日、ワイバーンに襲われた東側防衛陣地でも魔王軍部隊が姿を現していた。
東側にも森からヒドラの類の魔獣が3体現れた。
こちらは、9つの頭を持つブラックヒドラが1体と、南東側に現れたものと同じ4つの頭の大型ヒドラが2体居た。
魔物が現れた森、リュンデの森は、東から南に大きく広がっており、魔王軍部隊は森の中で二手に分かれて侵攻してきたようだった。
東側防衛陣地はワイバーンによる襲撃の損耗から回復しておらず、配備兵力は早々にリシュターへの撤退が行われた。
そこで、魔王軍は一部の部隊を更に北に振り向けて動き出した。
どうやら北東側の壁門に一部兵力を振り向ける動きだった。
足の速いアースドラゴン6体と、空が飛べるハーピーやヒポグリフが編隊を組んで上空を進む。
そして、複数の人型の魔物も後を追うように北に向かっている。
先行部隊のアースドラゴンが制圧した後の要地占領を行う部隊だった。
この動きから、リシュターの4つの壁門の道を塞ぎ、包囲する企図は明白だった。




