「戦う決意」
リシュターの街では再び食料庫の放火騒ぎが発生した。
以前に大火災になった食料庫とは別の食糧倉庫に対して放火が行われた。
幸い、警戒を厳重にしていた領地軍の警備隊が消し止め、ボヤのレベルで押さえることが出来た。
犯人はどうやら人間のようなのだが、未だに捜索中との事だった。
ワイバーンの件と言い、今回の放火騒ぎと言い、キナ臭さがリシュターの街に漂っていた。
街でも数々の異常事態に魔王軍がリシュターに攻めて来るという噂が広がりつつあった。
リシュターの領地軍も動員がかかったようで、近隣の村からの動員兵士が到着していた。
皇帝陛下にも援軍の要請を行っていると思われた。
そして、リシュター都市の行政部から、第一次の避難民を募る通達が出されたのだった。
条件は、自前で馬車が用意できるか、徒歩での避難で、自分が持てる範囲の荷物に限ると言う形だ。
要は、行政の助けなしに自力で避難できる者を先に都市外に出してしまおうと言う事だ。
「リォンリーネさん、リシュターから退避してください」
パーンから情報を得た迅代は、いよいよ状況が差し迫っていると見て、リォンリーネに進言する。
「いえ、わたしはリシュターに残ってジンダイさんを助けますよう」
リォンリーネは即答で応える。
恐らく、迅代がそう言いだすことを予見していたのだろう。
「リシュター領地軍だけでは恐らく、魔王軍の攻勢を跳ね返せないと思います」
そう言う迅代に、リォンリーネは反論する。
「でも、ジンダイさんも戦うんでしょう?」
「銃の威力があれば、魔王軍の強い敵にも対抗できると思いますよう」
リォンリーネも銃でワイバーンをも倒して事は知っていた。
ワイバーンは、使役されるような魔獣の中では最強クラスの魔獣だとの認識だ。
だが、迅代は一人の力だけで戦争的な戦闘は解決できるものでは無いと考えていた。
特に、包囲戦術により兵糧攻めをされた場合は、銃一丁だけではどうしようもなかった。
包囲戦に勝つには、他所の増援部隊が籠城している所に合流し、内外から包囲軍を挟撃するのが定石だ。
当然、戦力が集結するまで持ちこたえる、それが籠城する側の勝利条件だ。
もし増援部隊が望めなくなった場合は、城塞へ敵の総攻撃を誘い反撃して損害を与えるか。
もしくは、包囲環を打ち破り、包囲に穴をあけ拡大していくか。
だが、それが出来るぐらいならみすみす包囲を待つことは無い。
包囲される前に決戦を挑むと言う方法も有る。が、それにはリスクが伴う。
城塞都市の防御力を生かせず戦う事になり、負ければ、その後の籠城戦がかなり苦しくなるからだ。
この辺りは増援の見込みと、彼我の戦力差の見積もりと、軍略を立てる者の性格次第と言う所だ。
「兵糧攻めで、おなかが空いた状態で餓死するかも知れないんですよ?」
迅代は少し脅すような口ぶりで翻意を促す。
「お、おなかが空くのはイヤですよう」
リォンリーネは泣きそうな顔になるが続ける。
「でも、逃げてジンダイさんを助けられず、後からジンダイさんが怪我したり、死んだり、みたいなことを聞くのも嫌なんですよう」
「リォンリーネさん・・・」
迅代は少し嬉しい気持ちになる。
「わかりました。では、銃の保守部品の製作や、魔法での支援をお願いします」
「一緒に戦いましょう」
リォンリーネは明るい顔でうんと頷いた。
迅代は考えていた。
『このまま姿を隠してリシュター領地軍を支援しているような場合ではない』
『もう、一緒に戦わないと致命的な状況になり兼ねない』
『パーンから連絡が有った皇女殿下の組織の者として、軍に接触するか』
しかし、魔王軍の動きは迅代より速かった。




