「ヴィンツとの戦い」
夜、迅代はセレーニアと部屋で、明日のヴィンツとの模擬戦について協議していた。
ヴィンツの戦い方は、剣術特化のザーリージャと思って対策を考えることにした。
今度は地面から突然ヘビが出て来る事も、変な魔法を使われることも無いだろう。
だが、攻撃スピードや打撃力はザーリージャと同等、その上にロングソードの斬撃が加わる。
模造刀とサブナイフはザーリージャ戦と同様に、鉄武装強化の呪符で強化する。
これで何回かの斬撃を受けることは出来るだろう。
ただ、この戦いでもクロスボウは役に立ちそうにない。牽制に一発撃つのが精一杯だろう。
当然、ザーリージャと同等の実力が有るであろう、ヴィンツに勝てる目算などなかった。
ザーリージャとヴィンツの違い、という話の中で、模擬戦中の態度に話が及んだ。
セレーニアの言葉によれば、ヴィンツは模擬戦や演習の対戦相手や仲間に対する扱いは、ザーリージャ程、手加減無しでは無いらしい。
ザーリージャとの模擬戦では今まで、重傷者3名の被害が出ているのだと言う。
『確かにあの勢いで来られたら並みの戦士では逃げ出したくなるだろう』と迅代は考えた。
その点、ヴィンツは軽傷以外の負傷者は出していないのだと言う。
「なら、命を守る、という部分は相手の善意に期待して、勝てる目を追求してみるのはどうだろう?」
迅代はつぶやく。
セレーニアは沈黙する。そして口を開く。
「今の装備と条件で、ジンダイ様が勝てる提案をすることが出来ません」
それはそうだろう。言わばLv99の勇者対Lv15の戦士の戦いだ。
少し迅代が沈黙し、話す。
「仮に、ですが・・・」
「俺の魔法の力を、全開で解放したとき、何らかのダメージを与えられると思いますか?」
「制御された術式や、魔法では、習得する時間は無いので、どちらかと言うと暴発とか制御解放と言う方法で」
迅代の言葉にセレーニアは驚く。
「暴発や、制御せずに、ですか??」
「そんな事は・・・考えた事も無く・・・」
戸惑いながら、少し考えるセレーニア。そして口を開く。
「わたしは前にも伝えた通り、ジンダイ様と同等程度の魔法力を持っています」
「魔術評価C、世間では魔法戦士を名乗っても誰にも文句を言われない魔法力です」
「そんなわたしが、勇者ヴィンツ様に上手く全力の電撃魔法を当てられたとしましょう」
「それでも、一時的に動きを止めることは出来る程度でしょうが、暴走、暴発状態であればその2倍か3倍かの力は出るかもしれません」
「なるほど」迅代は少し期待感を込めた声で答える。
セレーニアは続ける。
「しかし・・・わたしは魔法の制御を無視したり、暴発させるような方法を知りません」
「それにジンダイ様にどんな危険が有るのか分からないような方法を取らせる訳にはいきません!」
最後の語尾は強く感じだ。
「わ、わかりました。とにかく方法もわからないのでは戦術には組み込めないですね」
迅代もそれ以上は深く追求しなかった。
この話し合いの結論は、結局、どれだけ粘れるか?、一撃を与えられるか?という消極的な目標となった。
---模擬戦当日---
当日の天候は少し曇っており、朝には小雨も降ったようだった。
そして、また、迅代は変わった格好で模擬戦に臨んだ。
今度は全身薄茶色で染められていた。
模擬戦を観戦に来ていたギャラリーも、また、口々に笑っている。
「ジンダイ殿、昨日まではアマガエル、今日はツチガエルですかな?」
ボーズギア皇子は相変わらずバカにして言った。
迅代は相変わらずマジメに答える。
「アマガエル、と、ツチガエル、こちらにも居るんですね。」
「でも、本当にツチガエルほど、カモフラージュできるといいのですが」
ボーズギア皇子は迅代の返答に、話にならないと周囲のお付きの兵士とコソコソと悪口を言い合っている。
そして、ヴィンツと迅代が兵練場の真ん中に並ぶ。
今日も接近戦想定の10m。
ヴィンツは剣を鞘に納めて手に持ち、ジロリと迅代を一瞥した。
ぺこり、と会釈する迅代。
ヴィンツは微動だにせず、迅代を見ていた。




