「勇者並みの力」
迅代はワイバーンを射撃により撃ち倒した後、急いで防壁から降りてその場を離れた。
銃声が響いていたので、周囲の捜索が行われる筈と考えていたからだ。
急いでパーンが待つ馬車に乗り込み、馬車を走らせて帰路に就く。
「どうでした?派手に音がしてましたが、ヤれましたかい?」
パーンは軽い感じで迅代に質問する。
「ええ、殺りましたよ」
不敵な顔で迅代が言う。
「ホントですかい?ワイバーンを?へーっ」
パーンは驚いて見せた。
「ワイバーンに対峙していた白銀色の目立つ騎士様が囮役で戦って、足止めしてくれたおかげで当てやすかったです」
迅代の言葉にパーンは返す。
「ああ、白銀騎士リセルゼ様ですね、リシュターで一番の騎士と言われてやすからね」
迅代は続けて聞く。
「そう言えば、こっちの攻撃前に壁門から大きな弓矢が発射されたみたいだったが」
「あれは何なんです?」
パーンは答える。
「ああ、弩弓と言われている対魔獣用の大弓ですぜ」
「リシュターの切り札ですよ」
「威力はどうでした?ワイバーンに効いてましたかい?」
迅代は首を振り言う。
「いや、ワイバーンには力不足でしたね」
「正面からでは表皮で跳ね返されていました」
パーンは迅代をチラ見して質問を続ける。
「でも、勇者様のライフル銃だとどうだったんです?」
迅代は抱えたライフル銃を見て答える。
「徹甲弾を使ったが、胸の表皮なら正面からでも貫通出来た」
「だが、さすがに頭蓋骨には角度も悪かったが跳ね飛ばされたがね」
「ひゅー」
パーンの口笛を聞いて迅代は考えた。
『今なら単体の敵相手なら勝てる力は持てた』
『しかし、今の俺には逆に組織が無い』
『セレーニアさんに伝えた遊撃部隊が出来て、前衛を任せられる人物がいれば良いんだが』
ーー1時間後ーー
軍師デカルテは息絶えたワイバーンの元に足を運んで、検分を傍らで見ていた。
ワイバーンの胸部の傷は、弩弓の矢が当たった部分では、胸の表皮をえぐったが、貫通までには至っていなかった。
しかし「森の守護者」の攻撃は、表皮を貫通し、内部の組織まで傷が至っていて、重度な損傷を与えていた。
「恐るべき威力だな・・・」
軍師デカルテは、威力に感心し、つい口から感想が出てしまった。
「わたしも近くで見ていて驚愕しましたよ」
後ろから傷の手当てを終えた白銀騎士リセルゼが声をかけて来た。
デカルテはリセルゼのほうを向き慰労した。
「これは、白銀騎士殿、此度は大変危険な任務をお受けいただき、感謝の念に堪えません」
「此度のワイバーン討伐において、リシュター領軍の中では一番の功労者なのは間違いないでしょう」
しかしリセルゼは醒めた口ぶりで言った。
「倒したのは「森の守護者」ですけどね」
リセルゼは視線を倒れたワイバーンに向けられた。
デカルテはそれは否定できなかった。
「あの奇妙な音、聞きましたか?」
リセルゼはデカルテに問いかける。
「おお、聞きましたぞ、あのキーーーという音ですな」
軍師であるデカルテはこの討伐戦では、東壁門の司令区画で、戦いの流れと弩弓の発射指揮を監督していた。
その場で、3回発せられた奇妙な音を聞いていた。
「あの音はリシュターのほうから聞こえていたのですが、近くに森の守護者のような人物は見当たりませんでした」
「しかも、攻撃より音が後で聞こえておりました」
リセルゼの言う言葉に、デカルテも考えを述べる。
「確かに音はリシュターから出ていると思い、ワイバーンが倒れた後に周囲を捜索させたが、森の守護者らしき者も弩弓のような武器も見つかりませんでしたな」
「もしかしたら魔術士なのかもしれません」
「でも、魔法が発動されるときの光や魔法陣のようなものは見かけてはいませんがね」
リセルゼはリシュター防衛の最強武器弩弓を引き合いに出して呟いた。
「どうやら森の守護者は、弩弓より強力な武器を持ち、弩弓より速い速度で攻撃を連射し、弩弓より身軽に行動できる、という事になりますな」
その言葉を聞いてデカルテは答える。
「本当に勇者並みの力を持っているのだろう」
「森の守護者が我々の味方であればこれほど心強い事は無い」
「しかし、敵であったのなら・・・これほど恐ろしい事は無いな」




