「通行止め」
出現したワイバーンの討伐を試みる事にした迅代は、襲われている防衛陣地が近い、東の壁門へパーンの馬車で向かった。
以前は、町を出るときにはリォンリーネに荷物として持ち出してもらっていたが、最近は、パーンと組んで堂々と壁門を通過していた。
ひとつは勇者ジンダイが公に手配されている訳では無い事が分かった事。
そして、緑髪とメガネの変装が、意外と効果的で、今まで勇者ジンダイかと疑われた事が無かったためだ。
しかし、東門では、その道を進んだ先に東側防衛陣地が有り、ワイバーンが暴れているため、通行が止められていた。
道の先に進むと今危険な状態なので、当然だった。
壁門の出口を前に、20台ほどの馬車が通行止めにより道なりに並んでいる状態だった。
だが、今から北東や南東の門に移動していては、防衛陣地の損害が大きくなる可能性が有った。
「こりゃダメだな」
パーンが呟く。
迅代は少し考えて聞いた。
「東の防衛陣地まではどのぐらいの距離が有るんでしょう?」
その問いにパーンが言う。
「そうだな、2クロメルト※ほどだな」
※約1200m
迅代はその距離感を頭にイメージしてみる。
「結構近いですね、もしかしたら防壁に登れば視認できますかね?」
「ああ、ワイバーンが飛んでいれば視認できるだろうな」
「では、防壁の上から狙撃を試みましょう」
その迅代の言葉にパーンは驚く。
「ここから?2クロメルト先の目標を攻撃するのか?」
その言葉に迅代は言う。
「人間サイズならちょっと難しいですが、ワイバーンは大きいのでしょう?」
迅代の問いに慌てて答える。
「あ、ああ、そうだな、全長は尻尾も入れれば20メルト※は有るんじゃないか?」
※約12m
迅代は余裕の顔で言う。
「空中で静止するタイミングなんかが有れば、当てるのは余裕ですよ」
「問題は、徹甲弾でワイバーンの表皮を撃ち抜けるか、ですね」
パーンはその言葉を信じて言った。
「じゃあ、もうちょっと距離は離れるが、兵隊の少ない所で防壁を登れる場所を見つけよう」
そう言いながら並ぶ馬車の列から離れ、馬車を右側に出して進めた。
そして馬車を防壁に沿ってゆっくり進めて行く。
城塞都市リシュターの防壁は、場所によって異なるが概ね高さが10mほどは有った。
リシュターの周囲全周に水堀と防壁で囲まれているが、防壁の所々には防御攻撃用に兵員が陣取れる区画がある作りとなっていた。
区画の大きさはまちまちで、2~3人用のものから、20人ほどが陣取れるものまであった。
ただし、区画間の行き来は、一旦、地上に降りてから行う必要が有った。
防壁の全周に渡って兵員が行き来して戦闘できるようなものを作る予算が無かったためだ。
区画の主な使用用途は壁外の監視と、弓兵や槍兵による接近阻止攻撃用途だった。
防御攻撃用区画の配置場所もまちまちで、壁門近くには数も多く、たくさんの兵員が入れる物が作られていた。
当然、今回のワイバーン騒ぎで東門に近い防御戦闘区画には兵士が多めに配置されていた。
リシュターに向かってきた場合に備えてだ。
しかし、2~3人用の小さなものには兵員はあまり配置されていなかった。
「あそこが良い」
迅代は兵員の居ない小型の防御戦闘区画を指さす。
普段なら兵員が必ず配置されているが、東門の側に動員されているようだ。
恐らく、侵入することは出来そうだった。
この場で一旦、迅代を降ろし、パーンは馬車を隠すため、木陰に向かわせた。




