「緊急の再出発」
ワイバーンがリシュター都市の防衛陣地に現れた頃、迅代は森から帰還して、ライズ武具店で装備の点検をしていた。
森でひと仕事終えた迅代は、ライズ武具店の雇われ店主、パーンに街中に送ってもらった所だった。
当然、定例政策会議で話題となった、森の守護者の4件目の事件。
Aクラス魔獣、ヘルハウンドを倒したのも迅代だった。
この時は、実験用のホローポイント弾を初めて使用してみたのだった。
ホローポイント弾は、弾丸の先端に穴が開いており、弾着と同時に弾が平たく広がって潰れるようになっている。
弾丸と言うのは、命中しても、スッと抜けてしまうようでは威力が活かせない。
体内にとどまり運動エネルギーの全てを体内に伝えるほうが、撃たれた側のダメージが大きい。
また、弾丸が体内で飛び跳ねたり、広い面積でぶつかるほうが、ダメージが大きい。
ホローポイント弾は、弾が潰れて変形して広がり、ダメージを大きくする。
そして潰れた弾はブレーキがかかり、運動エネルギーをその場で消費させる。
撃たれる側からすれば、当てられると厄介な弾であった。
ホローポイント弾での戦果は上々だった。
想像通りにヘルハウンドの頭部を吹き飛ばす程の威力を発揮した。
その結果に迅代は満足していた。
そんな時、店の入り口付近からコトンという音が鳴った。
どうやらパーンが雇っている協力者からの連絡が入ったようだ。
店の入り口付近にある手紙受けは、少し仕掛けがしてあって、物が投入されると音が鳴るようになっていた。
また、外に出なくても手紙が取り出せるよう、店内と繋がっていた。
パーンは投函された情報を見て驚いたように言った。
「近くにワイバーンが現れたらしい」
パーンは少し慌てた様子だった。
「ワイバーン、強い魔物なのか?」
迅代はピンと来ておらず、のんきな感じで聞いた。
「おいおい、ワイバーンは最低でもSクラス、並みの軍隊なら束になってかかっても敵わないヤツだぜ?」
呆れたような口ぶりでパーンは返す。
「空を素早く飛んで、口からは攻撃力の有るブレスを持っている物も多い」
「爪は強力、皮膚は頑丈、矢なんかじゃあダメージを与えられないし、少し高く飛ばれたら地上からは手も足も出ない」
パーンは首をすくめて説明してくれた。
「ブレスはどんなモノを吐くんだ?」
迅代はパーンの説明を聞いても、まだ、ピンと来ないでいた。
そこで、パーンが追加で説明をしてくれる。
「ブルーなら氷結、レッドなら火炎、パープルなら毒といった所か?」
「そう言えば溶解液を吐くヤツも記録されていたな」
「一番恐ろしいのはホワイトだ」
「光線を発して、その光に触れたものは丸焼けになるらしい」
「トップクラスに強力な敵、と言う訳なんですね」
迅代は考える目をして、口を開く。
「すぐに向かいましょう」
「今度はワイバーン退治です」
迅代は磨いていた装備を背のうに詰め込み、再度、出かける準備を始めた。




