「慰労のお茶会」
リガルドのパーティーは皇女が設立した皇国遺跡調査室のフィールドワークに随伴し、そこで起きる荒事に対応する護衛役を請け負っていた。
長期の専属契約で、依頼人の身元は言うまでもなくハッキリしているので良い案件だと思って請け負っていた。
だが、今日は、クロスフィニア皇女が慰労のためにお茶会を催し、いろいろな意見も聞きたいのだと言う。
その誘いにリガルドは少し怪しさを感じていた。
護衛役の雇われ冒険者パーティーに慰労も何も無いだろうと。
だが、雇用者である遺跡調査室室長のモーゼリンからは、必ず全員で参加するようにとの業務命令に近い通達だったので断ることは出来なかった。
なお、抵抗を試みて、着ていく服が無いだとか、礼儀作法も知らないだとかを並べてみたが、全て、問題無いとして対処されてしまった。
リガルドは過去、軍に所属していた時に、城のパーティーなどに参加させられたことが有るので、貴族が着るような服装は初めてでは無かった。
しかし、グリーナとイリナは、城に招かれる事など初めてで、貴族が着るような立派な服装をしたことが無かった。
出発前に、皇国遺跡調査室本部に、洋服屋と着付けの補佐役をモーゼリンが用意し、三人は城に入っても恥ずかしくない洋服を着せてもらった。
だが、普段着ない服装のグリーナとイリナは、閉じた襟元がどうしても我慢できなかった。
そのため、シャツのボタンは留めず、ネクタイとリボンでごまかして襟元を緩くしてもらった。
それでも、イリナはこのお茶会にワクワクしていそうだった。
「また、あのお姫様に会えるのかな」
そう言うイリナの問いかけにグリーナは言った。
「それは、招待した人が居ない事は無いと思うけど」
そう言いながらもグリーナはかなり緊張しているようだった。
着飾ったグリーナとイリナを見て、リガルドは表情には見せなかったが、少し胸が熱くなった。
『あれから6年、か・・・』
テンション高くグリーナに話しかけるイリナを見て2人を引き取った時のことを思い起こす。
そんなリガルドにイリナは近づいてきて言った。
「おかしくないかな?あまり似合って無い気もするけど」
普段は活発でボーイッシュな獣人のイリナは、かわいらしいドレスを恥ずかしそうに見せて、リガルドの意見を聞きに来た。
「ああ、大丈夫だ」
素っ気無く返事をするリガルドに、イリナはふくれっ面になる。
「リガルドは嘘つかないから良いけどさ、もっと言い方があるよね?」
でも、リガルドの言葉にイリナは安心したようだった。
3人とモーゼリンは、馬車でお城に向かい、バラ園の中にあるガゼボ※に通された。
※屋根が有り、休憩が出来るひと部屋程の建築物
すでに、お茶会の準備が整えられ、お菓子やちょっとした料理が並べられていた。
そしてリガルドたちの到着をクロスフィニア皇女が直接出迎えてくれた。
この歓迎に、グリーナとイリナはとても感動していた。
顔は満面の笑みで、クロスフィニア皇女をじっと見つめていた。
軽く皇女との挨拶を交わした後、席に着いてクロスフィニア皇女が挨拶をする。
「リガルド殿、グリーナ殿、イリナ殿、今日は招待に応じて下さり、お礼を申し上げます」
「いつも職員たちの護衛役の任、立派に果たしてくれて、感謝しております」
「本日は、お礼の意味を込めて、お茶を楽しんでもらえればと存じます」
言葉を区切り、皇女の目配せを合図に、側付きのメイドたちがそれぞれのカップにお茶を注ぐ。
お茶には口を付けたのだが、イリナはもじもじして、なかなかお菓子に手が伸ばせないでいた。
そこにクロスフィニア皇女がイリナに向かい口を開く。
「こちらのお菓子を試してみませんか?」
ベリーなどがたくさん載った高級そうなパイのようなお菓子だった。
「はっ、はい!」
イリナの返事に、メイドが皿に分け取ってくれた。
イリナは、メイドにちょこんと頭を下げて、フォークで切り取り、口に運ぶ。
「おお、おいひーです!」
イリナの態度で少し場が和んだ。
グリーナもメイドに目配せして、そのお菓子を取ってもらい、食べる。
「お、おいしいです」
同じように美味しさを口にする。
クロスフィニア皇女はメイドに言って、いろいろな種類のお菓子を給仕してあげるよう伝えた。
普段食べた事が無いお菓子に、グリーナとイリナは目を白黒させながら舌鼓を打っていた。
リガルドは勝手に肉包みのパイを何切れか取って、食べていた。
場が和んだ所で、クロスフィニア皇女は合図をしてメイドを下がらせた。
そして、口を開いた。
「本日は、慰労のための会でもあるのですが、もう一つ、相談したいことが有ってお三方をお招きしたのです」
リガルドは顔色を変えなかったが、来たな、と心の中で思った。




