「ヴィンツと言う勇者」
迅代は再び兵練場の医療室で目を覚ます。
今日も昨日と同じぐらいの時間だな、そんなことを迅代は考えていた。
「目が覚めましたか」
セレーニアがベットの横に座っていた。
「今日も、付き添ってくれたんですね。すみません。」
迅代は何か照れて、しゃちほこばった言葉で言ってしまう。
「ええ、ジンダイ様のお付きですからね」
セレーニアが微笑んで返す。
「今日はさすがに疲れました。もう少し寝てから部屋に戻る事にしますので、セレーニアさんは帰っていただいて良いですよ」
セレーニアが何か言いよどんだ素振りであったが、笑顔で迅代に言った。
「わかりました。ジンダイ様、夕食後にでもまた伺います」
そしてセレーニアは部屋から出て行った。
『しかしザーリージャの攻撃は迫真だった。今生きているのが不思議なぐらいだ』
迅代はあの戦いを思い返す。
『手加減しないと思っていたが、これほどホンキでやるか?普通??』
迅代は目を瞑って考える。
『明日のヴィンツという剣士との戦いもタダでは済まないかもしれないな』
迅代は考えを巡らせながら、眠りに落ちていった。
剣士ヴィンツの剣技は、正に皇国のどの剣士も及ぶことが出来ない、空前絶後のものであった。
皇国では一般的な剣士は、力による斬撃、もしくは、突く事で剣を使うように教えられる。
しかし、ヴィンツは「斬る」剣士であった。
こちらの世界に召喚される前は、恐ろしく切れる剣をメインの装備とし、甲冑の兵士をまさに真っ二つに斬る技を持っていたのだと言う。
そして召喚されたこの世界でも、同様の剣を欲する、と要求を出したが、集められた剣のどれも前の剣と同等レベルのものは無かった。
現在は、暫定一位の剣、国宝「ガブルジーン」と呼ばれる、刀身は漆黒でかすかな青みを漂わせる両刃のロングソードを使っている。
無論、国宝なので、皇国の宝物庫から出されたものだ。
クロスフィニア皇女の過去の言い伝えによれば六代勇者の剣士が使っていた剣だと言う。
この剣であれば、甲冑の兵士を一刀両断するぐらいの事は出来るだろう。
しかし、刀身の材質の強さと粘りに不安が有った。
この剣の調子を見るために出かけたヒドラ狩りでは、思ったように剣は働いてくれたと評価していた。
当面の戦いはこれでこなすしか方法は無いのだろうと。
そんなヴィンツもザーリージャのように、ボーズギア皇子の部屋に呼び出されていた。
ボーズギア皇子はヴィンツが来るなり、さっそく本題を話し始める。
「ヴィンツ殿、明日の模擬戦の事で少し話がしたくてね」
「明日の模擬戦、始まると同時に、最大の力で勇者ジンダイ殿を屠ってもらえるかな?」
ヴィンツが答える。
「実力の測定は不要で、倒せば良いと?」
「そうだね。特に最後だし、派手に勝って貰えるほど良いかな」
「・・・わかった」
ヴィンツの承諾にボーズギア皇子は内心ほくそ笑む。
『上手くいけば、あのしぶとい緑の勇者も死んでしまうかもしれないしね』
「・・・」
なにやらニタついている皇子を前に、ヴィンツは黙って立っていた。
はっと我に返るボーズギア皇子。
「ヴ、ヴィンツ殿、用件はそれだけです、明日は頼みますよ」
「わかった」
ヴィンツは退室する。
ボーズギア皇子がヴィンツにいう事を聞かせるのは簡単だった。
不当でない頼み事であれば、概ね「わかった」と言うからだ。
そして、ヴィンツに対してザーリージャのような駆け引きは試みていなかった
裏取引や密約を言い出しても、拒否されてしまう空気を纏っているように感じるからだ。
だが、そういう相手は、逆に代償なしにいう事を聞かせられる便利な対象とボーズギア皇子は軽く見ている所が有った。
 




