「気になる情報」
アーロス領主の反乱事件から3か月に成ろうかと言うのにアーロス領の処遇はいまだに決まっていなかった。
アーロス子爵に妻子や親類は居るが、反乱の疑いはかかったままであるので、すんなりと相続させる訳にはいかなかった。
そこで、成り行きで代理総督となったセレーニアだったが、月日が過ぎるにつれ要領を覚え、有能そうな人物を見つけては補佐官として雇って行った。
そのおかげで、当初に比べてかなりの仕事の分担が出来るようになっていた。
本来の仕事である、勇者ジンダイの従者としての責務や、クロスフィニア皇女の支持派としての活動にも気を配れるようになってきた。
そんな中、クロスフィニア派の情報網を担う、グレッセ商会の報告書の中に気になるものを見つけた。
今までこの世界に無かった発想で色々な道具を作り出しているリシュターの道具屋リォンリーネ。
そして、一緒に居た、近衛隊に商品を卸している武器工房のジールを知る緑髪の若い男の情報だった。
その男は明確にでは無いがジンダイと呼ばれていたようだと。
この情報を読んだセレーニアは頭に閃光が走った気がした。
『武器工房のジールさん・・・確かジンダイ様の連射クロスボウを作ってもらった・・・』
『緑髪というのは心当たりは無いけれど・・・何らかの方法で髪色を変えているとすれば・・・』
『!!!』
頭の中でつながった仮定の話であったが、どうしても確かめずには居られない気持ちがあふれ出て来る。
セレーニアは、今居るアーロス領の都市アーロサンデから都市リシュターまでは馬車で5~6日は必要だ、
しかし、もうどうやって行くか、しか考えていなかった。
セレーニアは早速各方面に手を廻し、2週間ほど領地の運営業務を他の者に任せる手はずを整える。
そして、セレーニアは未だ近衛第四部隊より預かっている騎士のトールズに総督の代役を頼もうと呼び出した。
「トールズ、すみませんが、わたしが留守の間、総督代理の代理を務めてもらいたいのです」
セレーニアはトールズの顔を見るなりに言った。
「ええ?、セレーニア様、そんな重責、僕には無理ですよ」
そう言いながらもさっと髪をかき上げ、カッコを付けるのは忘れない。
「それにわたしはセレーニア様の護衛騎士、セレーニア様がここを離れると言うのなら、付いて行くのが筋と言うものです」
トールズが話し終わるのを待って、セレーニアが口を開く。
「トールズ、このアーロス領では、わたしが完全に信頼が置けるのは、まだ、あなたとアレジアしか居ません」
「もし、わたしが居ない間のアーロスで騒乱のような事が起きた場合に、信頼できる人物にトップの地位を抑えていて欲しいのです」
「それに・・・」
「アレジアはこの手の役目はとても苦手なのは分かっているでしょう?」
トールズは少し考えた後、苦笑いをして口を開いた。
「わかりました、確かにアレジアはトップには向きませんね・・・」
セレーニアがリシュターへ行く調整作業を行っている内に、だんだんとリシュターの怪しいうわさが耳に入ってくるようになっていた。
リシュターの隊商が頻繁に盗賊に襲われているとか、近くに、はぐれ魔獣が現れたとかの噂だった。
実際に、リシュターでは食料が高騰してきており、単なる噂と言う訳でも無さそうだった。
だが、リシュターの現地軍がはぐれ魔獣を討伐して回っているとの事で、一時的な出来事だろうとは言われていた。
しかし、馬車でのんびり旅をすると巻き込まれる危険もあるとの事で、セレーニアとアレジアの二人だけで馬による強行軍でリシュターに向かう事にした。
疲労は出るだろうが、2日ほど時間が短縮できるのは大きい。
セレーニア自身も、本当に迅代が居る確証があるわけでは無いのだから。
迅代が居なければ、すぐにアーロスに戻って来るつもりだった。
出発の日
「アレジア、準備はいいかしら?」
馬に乗ったセレーニアが後ろでもぞもぞしているアレジアに声をかける。
「ちょ、まってください」
「服が引っかかって、体勢が・・・」
セレーニアもアレジアも一般の商人のような恰好で出かける事にした。
今回はリシュター領主にも挨拶をするつもりが無いお忍びだった。
グレッセ商会の女支配人として訪問する。
「じゃあ、トールズ、頼みますね」
セレーニアは馬上から微笑んで告げる。
平服姿のセレーニアに少し見とれていたトールズは、慌てて取り繕う。
「お、お任せを、安心して確認してきてください」
トールズはそう言うと、アレジアに声をかける。
「アレジア、僕の分もしっかり、セレーニア様の護衛を頼むよ」
そう言ってトールズは髪をかき上げた。
「わかってるよ、ちゃんとお土産も買って来るからさ」
アレジアは久しぶりの領地外へのお出かけで嬉しそうだった。




