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「討伐報告」

リシュター領主、ダノン・リシュター公爵は魔獣討伐より帰還した白銀騎士と呼ばれるリセルゼ・ゲレイゼの報告を聞いていた。


「うむぅ、要領を得んな。不明瞭な事が多すぎるぞよ、リセルゼよ」

リシュター公爵は恰幅の良い腹を隠そうともせず、ずでんとふんぞり返った姿で、リセルゼの話を聞いていた。

リシュター公爵の傍らには、後継者と目される、息子のダイス・リシュター、および、領地の軍事を司る、軍師デカルテ・ガーブズが立っていた。

いずれも、リセルゼの報告には困惑しているようだった。


実は、リセルゼ自身も、明瞭な報告が出来ずに困っていた。

それほど、今回の討伐作戦は異例な事が数多く有った。

リセルゼは領主の御前で汗をかきながらも、こう言うしか無かった。

「順を追ってお話ししますと、先のような説明にしかならないのです」


まずは、Aクラスを超えるような魔獣が3体出現しており、それを3体とも討伐が出来た。

これは事実として間違いなかった。

現に、3体の魔獣の遺体はすでに回収され、検分された後に、領地の財産として商人ギルドを通じて競売にかけられた。


しかし、何故、3体もの恐ろしく強力な魔獣が、辺境でも無い中心都市リシュターの近くの森に生息していたのかは不明だった。

自然に繁殖していたものとは思えなかった。

同一種の魔獣ならまだ考えられるが、3種類別々の種の魔獣だったのだから。


そして当初考えられていた、はぐれ魔獣という線も疑わしくなった。

はぐれ魔獣が人里近くに現れる事は過去に有ったが、1体のみ以外に記録になかった。


「誰かが連れて来た、もしくは、魔獣が意思を持って現れた」

軍師デカルテは口を開いた。

軍師デカルテは初老の軍人で、元は皇国軍近衛隊の参謀として勤めていた御人だった。

それを、リシュター領が召し抱えたのだった。


「そんな、誰がそのような事を?」

リシュター公爵は少し不機嫌そうに軍師デカルテに問う。

不機嫌そうな口ぶりなど全く臆せず、軍師デカルテは続ける。

「今の情勢ですと、魔王軍、が、可能性が高いのではないですかな」

「魔王軍は高位の魔獣を使役し、戦争に投入していますので」


その場にいた者すべてが黙る。


確かに、リシュター領と境界を接している、グーゼンテ領、アーロス領、アイルズ領がそれぞれ魔王軍の被害に遭っている。

アイルズ領に至っては、領主が暗殺され、領地の一部が占領されたままだ。


「まさか、我が領地に・・・」

リシュター公爵がそう呟く脳裏に暗殺されたと言うアイルズ子爵の境遇が思い浮かぶ。

狼狽しているリシュター公爵を尻目に、軍師デカルテはリセルゼに聞く。

「その、森の守護者と言ったか、その者の情報は何か掴んでおるのか?」


リセルゼは魔獣は自分たちが倒したわけでは無く、誰かに助けられて倒したことは正直に告げていた。

それほど、彼我の兵力差は大きく、生半可な誤魔化しでは突き通せないからだ。

だが、真実を告げても、誰も納得するような内容でも無かったが。


「森の周囲の村にはそれぞれ、森の守護者なる、勇者伝説のような伝承が有るのですが・・・」

「ある村では、緑髪、緑目のスマートな男性、ある村では、赤髪の勇猛な女性騎士」

「ある村では、青髪で浅黒い肌の大男、などと、ばらばらの伝承でした」

「ただ、唯一、共通しているのは、森の危機に現れて、助けてくれる、と言うものです」

リセルゼは村人や周辺の村出身の兵士たちから集めた情報を話した。


「魔獣の出現により、リシュターの食糧供給が滞っていたが、ともかくは、元に戻るだろう」

「だが、魔王軍が我がリシュター領を狙っている可能性も、今後、考慮せねばならないでしょう」

軍師デカルテは領主であるリシュター公爵に意識してもらえるように声を張り上げて言った。


「森の守護者は、本当に居るのかは分からないが・・・森の各村々に御触れを出して、もう少し情報を集めて見ましょう」

軍師デカルテが領主のほうを向いて告げる。

領主は良きに計らえ、とばかりに、右手を軽く振って口を開く。

「それよりも、アイルズ子爵は魔王軍に暗殺されたと聞く」

「わが身の警備を厳重にせよ」

「リシュターの都市の出入り、城の出入りを厳重にせよ」

少し怯えたような口ぶりで軍師デカルテに告げる。


「仰せのままに」

軍師デカルテはかしこまって礼をする。

しかし、アイルズ子爵の暗殺の様子を聞いていたデカルテは、警備を厳重にしても無駄だと考えていた。

アイルズ子爵は警戒厳重な城塞内で警備にも気づかれずに暗殺されたのだから。


しばらくして、徐々に改善するだろうと見られたリシュターの街の食糧事情は改善しなかった。

まだ都市周辺での通商妨害が継続しているようだった。

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