「村の伝説」
当初、迅代は獣討伐加勢のために、魔獣の形跡を追いながら森の中を進んで行った。
だが、森の草木が途切れている空間に出たため一時的に足跡を見失ってしまっていた。
仕方なく、付近の大きな木に登って見て、魔獣の痕跡を探す事にしたが、そこで偶然に、白銀色の目立つ騎士がグロウサーペントと戦闘している場面を発見したのだった。
だが、白銀色の騎士は馬から叩き落されて危険な状況だった。
距離にして300mほどは有りそうだったが、迷いは無かった。
木の枝を支えに射撃姿勢を取り、スコープ越しに狙いを定め、初弾を発射、見事に命中させた。
しかし、さすがはグロウサーペント、1撃では倒せなかった。
怯んだ敵の、今度は眉間を狙って射撃し、見事に撃ち倒すことが出来た。
『さすがに通常弾ではAクラスの魔物は厳しいか・・・』
だが、今度は、後方から、2体のサーペントのような魔獣が見え隠れしながら別の兵員を襲っているのがわかる。
『まだ、別のヤツが居たか』
迅代は木から降りて、目標目指して移動する。
その途中、通常弾の弾倉を外し、徹甲弾の弾倉と入れ替える。
そしてボルトを操作し空薬きょうを排出し、徹甲弾を装填する。
迅代が150mほどの距離に近付いた時、ホワイトサーペントが落馬した兵士を襲おうとしているのが見えた。
『まずい!!』
迅代は慌てて立ち撃ち姿勢で木の合間に見えるホワイトサーペントの頭部を狙い撃った。
徹甲弾の威力は絶大で、ホワイトサーペントの頭部が破裂して消し飛んだ。
『これならやれる!!』
今度はレッドサーペントの頭部を狙う。
しかし、今度の射撃は、敵の動きにより頭部からは外れた。
それでも、弾は首元に当たり、首から頭部を分断するほどの威力が有った。
『この威力なら、十分に魔獣たちに対抗できる』
今回、3体の魔獣を瞬く間に撃ち倒せたことは、迅代に大きな自信を与えた。
一通りの危機は去ったと見た迅代は、少し離れた木の木陰から、白銀色の騎士たちの行動を見ていた。
ここから見る限りは、全員が何とか生存していて、撤退のための準備をしているようだった。
『とりあえずは間に合ったみたいで良かった』
迅代はそう思いながら、その場を後にし、村に戻る事にした。
陽が傾くころ村に戻った迅代は、村長の家に所に向かった。
「ジンダイさん」
リォンリーネがそう言って、また、口を自分の手でふさぐ動作をした。
また、ジンダイと呼んではいけない事を思い出したようだった。
周囲の人は特に気にしていないようなので助かった。
リォンリーネが控えめな声で「どうでした?」と聞く。
周囲の人に細かい事を聞かれるのは良くないと思い、右手でサムアップだけをゼスチャーした。
リォンリーネは意味が分からず、不思議な顔をしていた。
『しまった、通じなかったか・・・』
迅代は少し反省した。
「どうでしたかね?軍隊の人とは会えましたかね?」
村長が迅代を認めて近寄ってきた。
「いえ、追いかけたのですが見つけられず、遅くなりそうだったので戻ってきました」
迅代は魔獣を倒したことは言わずに、諦めた事にした。
そんな時、村長が道の向こう側を見て叫んだ。
「おお!どうでしたか、騎士様!!」
迅代が後ろを振り向くと、意外に早く白銀色の騎士様一行が戻って来たようだった。
『まずい、さっさと立ち去るか』
そう思い、迅代はそっとリォンリーネの馬車のほうに向かう。
「見事、魔獣は討伐された!」
先頭を進む部下の兵士、オーパは声を上げて報告した。
「おおお」
「助かった」
「これはこれは、大変ありがたい事です」
村人や村長は口々に礼の言葉を述べる。
騎士が村長と何かを話している所に、もう一人の部下、サージョンが叫び声をあげた。
「森の守護者様!!」
サージョンが指さした先にはリォンリーネの馬車の傍らにいた迅代が居た。
その場にいた者の注目が迅代に集まる。
状況がわからずに、迅代は少し焦る。
白銀の騎士リセルゼが迅代を見て村長に聞く。
「あの緑色の髪の者は何者なんだ?」
「ああ、リシュターの街から荷物を運んできてくれた人ですね」
「騎士様の後を追って加勢する、って出ていましたが、今しがた諦めて戻って来たところです」
リセルゼは少し考えて口を開く。
「ふうむ・・・」
「森の守護者、という者を、村長は聞いたことが有るか?」
リセルゼの問いに村長は答える。
「ええ、もちろんですよ、この村に古くから伝承されています」
リセルゼは更に聞く。
「あの者、緑の髪の男が森の守護者とは思わなかったのか?」
「え?何故でしょう?」
「容姿が森の守護者に似ているとは思わなかったのか?という事だ」
そのリセルゼの問いかけに、村長は首を振った。
「森の守護者様は赤髪の女性騎士ですよ」
「男性のあの方は森の守護者とは結び付かないですよ」
どうやら森の守護者の伝説はこの村ではサージョンの村とは違うものらしかった。




