「野外テスト」
要塞都市であるリシュターは比較的大規模な堀に囲まれていた。
これは、外からの侵入を防ぐとともに、中から密かに外に出る事も困難にしていた。
都市の外に出るには、4つの防御壁門のうちのいずれかの道でないと堀に橋がかかっていない。
夜間であれば壁を越え、堀を泳いで渡るなどすれば、外に出れなくも無いが、装備は最小限でないと難しいだろう。
リォンリーネは借りた馬車に乗って、壁門の順番待ちをしていた。
馬車の荷台にはいくつかの荷物を載せていた。
その中の荷物の一つにリォンリーネは話しかける。
「今日はなんだか順番待ちの人が多いですねえ」
「空の荷馬車が多いので、主に買い付けに出る人たちでしょうかねえ」
箱の中に居る迅代は、返事をするかどうか迷った挙句。
「そうなんですね」
とだけ答えた。
『いくら警戒が緩いとは言え、あまり喋るのは危険だろう』
そんな事を心の中でツッコみながら、緊張状態で箱の中で周囲に気を配っていた。
この日、迅代はリシュターから30kmほど離れた森に出るために、リォンリーネに無理を言って送ってもらっていた。
2日ほどかけて、ライフル銃の野外テストを実施するためだ。
まだ勇者ジンダイの手配が終了したとは聞いておらず、堂々と壁門を超えるにはリスクが有った。
町の噂では、相変わらず、ジンダイは悪人のようだった。
最近では、魔王軍討伐部隊の戦果があまり上がっていないようなのだが、その結果も全て裏切り者の勇者ジンダイのためとの事だった。
最も新しい噂では、アイルズ領主が野戦城塞で暗殺されたが、これも、ジンダイが手引きしたという事だった。
もう悪事は何でもジンダイが関与しているようだった。
『そんな野戦城塞の存在すら俺は知らないだろ』
『時系列とか整合性とか全く無視だな』
ここまで来れば、消極的な不都合な事象の言い訳、では無く、完全に勇者ジンダイを悪者にするための噂だった。
そんな状況であるので、緑髪でメガネの変装はしていたが、とりあえず木箱に隠れて都市の外に出る事にした。
「そろそろ、順番ですよう」
リォンリーネが木箱に向かって話しかける。
その声を聞いて、迅代は息をひそめ、警戒を強くする。
そこに、突然話しかける声がする。
「うん?この馬車には誰か乗っているのか?」
門を警備する兵士が馬に乗って巡回しており、丁度馬車の後ろに付いていたところだったが、リォンリーネの言葉に不審に思ったようだった。
リォンリーネは汗をかきながら、答える。
「いいい、いいえ、いいえ、誰も載っていませんよう!」
兵士は馬に乗って並走し、前から荷台の中を覗き込む姿勢を取る。
リォンリーネは御者台で固まって視線をそらしている。
木箱の中の迅代は冷や汗が走る。
どう見てもその兵士は少し疑っているようだった。
ぴったりと馬の兵士は付き添って来て、検問の手続きにまで付いてくる。
「えっと?・・・道具屋リォンリーネか」
道具屋の営業許可証を確認して、兵士がジロリと睨む。
「あわわ、そ、その通りです」
「積み荷は?」
馬の兵士が降りてきて質問に参加してくる。
「ギ、ギーコウの村に有る店に届ける生活用品ですよう」
そう言って品目リストを見せる。
これは事実だった。
馬車を借りる際についでに請け負った仕事で、リォンリーネは森に迅代を降ろした後に、その先の村、ギーコウに荷物を届ける事になっていた。
「ギーコウ?援助物資という事か?」
「援助物資?ですか?」
リォンリーネはきょとんとする。
「そうか、まだ、」
そう言いかけて馬の兵士と検問の兵士は何か話をして、言った。
「ギーコウの村ははぐれ魔獣に襲われて、被害に遭った村人が沢山出たんだ」
「そこで援助物資を届ける手配が進んでいてな」
「物が不足して困っている人も多い。あなたも早く届けてあげてください」
「あら、大変ですよう、そう言う事でしたら出来るだけ急いで向かいますね」
なんとか話は繋がって、詳しく調べられるのは免れたようだった。




