「新しい道」
リォンリーネはふと目を覚ますと、自分の部屋のベットに倒れ込むような形で寝ていた。
「がバッ!」
慌てて体を起こすと、昨日酒を飲んでいた部屋着のままで寝ていたようだった。
まだぼんやりとしている頭で、迅代と酒盛りをしていた後の事を思い出そうとする。
あまり定かでは無いが、自分の家族の事や、生い立ちを話してしまったような気がする。
しかし、明確なやり取りまでは思い出せなかった。
その後、もう少し飲んで酔いつぶれた状態で部屋に送ってもらい、「大丈夫」と言って自分で部屋に入り、ベットに倒れ込んだ気がしていた。
『うう、ジンダイさんと顔を合わせるの恥ずかしいかもですよう・・・』
そう思いながらも、今日は倉庫での銃の試射を準備する約束をしていた事を思い出す。
自分の部屋を出て酒盛りをしていた居間を覗いてみると、迅代が朝食の準備をしてくれていた。
昨日の酒盛りの片付けも済ませてくれていたようだ。
リォンリーネは改まってちょこんとお辞儀をする。
「おはようございます」
迅代はその声に振り返って、明るく挨拶を返す。
「おはようございます。二日酔いは大丈夫ですか??」
「ええ、ええ、ミード(蜂蜜酒)では二日酔いにはならないですねえ」
普通に返事を返すが、内心は昨日の事でちょっと恥ずかしい感じがしていた。
「たくさん酒を飲んだ次の日は濃い目のスープが良いんです」
「もう少しかかるので、湯あみする時間ぐらいは有りますよ」
そう言うと、迅代はキッチンのほうに消えていった。
リォンリーネは湯あみをし、身なりを整えて、迅代と一緒に、少し遅い朝食を摂った。
そして、迅代と共に、例の倉庫での銃の試射に向かった。
リォンリーネはちらりと一緒に歩く迅代を見る。
昨日と同じ感じで、カバーに入れた銃を持ってワクワクしているようだった。
迅代が言うには今日は無理せずに、射撃の具合を確かめるだけにするとの事だった。
弾薬も通常弾を10発ほどと徹甲弾2発を持って来ていた。
すでにストックなしの状態では威力を知っているので、今日は、実際の肩撃ちの具合を試すつもりだと言っていた。
倉庫に入ると、30mほど距離が有る倉庫に端に標的を準備し、もう一方の端に射撃準備をしている迅代が立つ。
「では、遮蔽の魔法を使いますね」
リォンリーネが迅代に告げる。
「はい」
迅代の答えを聞いて、魔法を発動する。
迅代は立ち姿で、ライフルのストックを肩に当て、スコープを覗いて標的を狙う。
弾丸加速器の魔力充填ランプも点灯している。
「ボッ!!キィィィーー!!」
引き金を引くと同時に奇妙な音を発して、ライフルから弾丸が発射される。
発射の反動でライフル銃の銃口が上に跳ね上がる。
反動は問題無く肩で受け切った。
そして弾丸は標的円の少し右上にそれて当たったようだった。
「どうでしょうねえ?」
リォンリーネが心配そうに迅代に聞く。
肩撃ちの場合、反動が強かったり、ちゃんとストックが肩に当たっていないと、肩の骨が折れたりすると迅代から聞いていたため、少し心配していた。
迅代は弾道を確認した後、自分の体を点検して口を開く。
「大丈夫ですね。弾着も少し逸れましたが、修正できる範囲と思います」
ガチャ、ガチャと槓桿を操作して、排莢、次発装填も問題無く出来ている。
そして、2発、3発と連続で射撃する。
だんだんと標的への弾着が中心に集まって来る。
「うん、いいですね!」
迅代は満面の笑みでリォンリーネに告げた。
リォンリーネは、出会った頃の迅代を思い出して、少し胸にこみ上げるものが有った。
迅代は自身が追い詰められているのに、リォンリーネを盗賊から助けてくれた優しく正義の気持ちを持った「勇者」であった事。
そして、当時の迅代は、味方に敵のように扱われ、絶望の中に居たにも関わらず、人々のためにと、自身に課せられた使命を捨てなかった事。
それが、今この時点で、少なくともドン底からは立ち上がり、新たな道に進む事が出来るようになったのだと。
「リォンリーネさん?」
迅代はすこし瞳が潤んでいるリォンリーネを見て心配そうに声をかける。
「ほ、埃っぽいんですよう、この倉庫は」
涙を拭いながら、リォンリーネは微笑んでそう言った。




