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「泥酔」

リォンリーネは完全に出来上がっていた。

最初に用意したミード(蜂蜜酒)2樽はあっという間に飲み干し、迅代が追加で向かいの店に買いに走るほどだった。

もう机には空の樽が4樽転がっている。


でも、今回の祝宴は迅代がホスト役なので、リォンリーネの要望をはいはいと聞いていた。

それほど迅代は銃の完成に貢献してくれたリォンリーネに感謝していて、嬉しかったのだ。


「ジンダイさんはまだまだ魔王軍と戦うんですかねえ」

酔っているリォンリーネがぽつりと聞く。


迅代のほうは酔ってはいるが、意識ははっきりしている。

そんなに酒に強い訳では無いが、今日はそれほど飲んではいない。

「ええ、そうですね。召喚されて、そのまま皇国の味方をする事になって」

「そこからは、正直、あまり考えずに、魔王軍は敵、として戦っていますね」

「それは、召喚後に良くしてくれた人たちや、軍での部下たちのためと言うのが大きいです」

迅代はしんみりと語る。

そして、死んだ部下を思い返す。

『もし、最初から銃を持っていたら、ルーフやグリンを死なせる事も無かったのかも知れない・・・』


「戦場で戦って来たんですから、それは、いろいろありましたよねえ」

重そうな言葉を言っているがリォンリーネはぽわんと酔っている感じだった。

「ええ、部下も二人、死なせてしまいました・・・」

迅代は葬儀以降、ルーフとグリンの事について誰かに話をしていなかったが、思い返してぽつりとつぶやく。


「リォンリーネさんは魔王軍をどう思っていますか?」

あまりこう言った事を誰かに聞いたことが無かったので聞いてみる。


「町の噂では・・・」

「非道な魔王軍で、人間とは相容れない者たち」

「って感じで聞いていますねえ」

リォンリーネは酔っているからか、ゆっくりと話を続ける。

「実際は・・・」

「魔王軍の人たちに会った事も話した事も」

「無いので、よくわかりませんねえ」


「そうなんですね、魔族は人間たちと相容れないって聞いていますが」

「それも人づての情報なので、本当の所は分からないですよね」

迅代はしんみりと言う。

普段はそういう考えを封印して戦いに望んではいる。

そうしないと迷いが自分を殺すことになるからだ。


「俺が魔王軍・・・いや、魔王かな・・・」

「魔王を倒すためにこの世界に呼ばれたのなら、そのために貢献しようと思ったんですよ」

「どうせ元の世界の俺は死んでしまった後みたいだったし、生きる意味?はそれしか無いかと思ったので・・・」

迅代は少し寂しそうに話す。

召喚前の世界の、父母、弟妹はどうしているだろうかと思い返す。

父母にはまともな恩返しは結局できなかったなと後悔のようなものも浮かぶ。


「生きる意味・・・難しい言葉ですよう」

その言葉にリォンリーネにもひっかかるものが有ったようだ。


「元からこの世界に居るリォンリーネさんなら、迷う事は無いでしょう」

「自分の親兄妹や周囲の人との関係を大切にして、楽しみや目標を見つけて生きていく」

「そのうち伴侶に巡り合って子供を育てる」

「そんな感じじゃないですか?」

ちょっと引いた目線で迅代は他人事のような事を言ってしまう。


「それは・・・」

リォンリーネが何かを言いかけて、少し言いよどむ。

「それは、何も心配や疑いも無く育った家族なら」

「そうなんですけどねえ」

リォンリーネが苦笑いをする。


まずい事を言ってしまったか?と迅代は焦る。

「すみません、ご家族の事、何も知らずに変な事言っちゃって・・・」

迅代は謝罪する。


「いえいえ、普通ならそう思いますよねえ」

「ウチは少し特殊で・・・」

「家族の中でハーフエルフはわたしだけ」

「なんですね・・・」

「なので、人間だった母が無くなってからは」

「他の親族とはちょっと疎遠になっちゃいまして」

リォンリーネは思い出すような目でぽつりと語る。


そういう事だったか、と迅代はしまったと思う。

彼女がリシュターと言う人間の都市で借金までして道具屋を開業したのは、育った環境と隔絶し、誰も頼らなかったからかと。


「兄や姉は種族のプライドが高い人だったので」

「ハーフエルフは好きでは無かったみたいなんですね」

「でも、もう、昔の話ですね」

リォンリーネは少し悲しそうに笑った。


迅代はそれを聞いて、何も言えなくなった。

心に深い傷が有るのではないか?そう想像してしまったのだ。

話題を変えようと、焦る。

「おっと、カップに酒が無くなってますね!」

「まだまだ行きますか?」

と明るく樽を掲げる。


「おおお、久しぶりにガツンと飲みたい気分ですよう」

「もっと行きましょう!」

「ほらージンダイさんもおー」

リォンリーネは残り少なくなった迅代のカップを指さして言う。

そう言われた迅代もぐぃっと残りの酒を飲み干す。

「いいですねー、ジンダイさん男です!」

少し重い目のリォンリーネの身の上話を聞いてしまった迅代は、今日はとことん付き合うか、と思った。

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