「祝宴」
当初計画したイメージ通りの銃が完成して、迅代はあふれだしそうな気持で胸がいっぱいだった。
色々な角度から眺めたり、いろいろなスタイルで構えてみたり、槓桿を操作して空撃ちして見たり、と実際使う時のイメージを膨らませていた。
そんな迅代をほほえましくリォンリーネは見ていた。
「また、倉庫で試射しますかねえ」
リォンリーネは声をかける。
「そうですね、試射、しましょう」
「それと、都市の外で実戦さながらの試射訓練もしたいですね」
迅代は銃を撃つイメージを考えながら話す。
「では、早速、明日にでも倉庫の準備をしますね」
「でも・・・今日は、祝宴、ですね!」
リォンリーネはミード(蜂蜜酒)の樽を取り出しながら、早く開けたそうに言う。
「そうでした、向かいのお店で買ったやつ、開けちゃいましょう!」
いつもはクール目な迅代だが今日はノリノリだった。
買って来たものは、1リットルほど入りそうな小さな樽のミード(蜂蜜酒)を2つ。
そして、おつまみとして、酒に合いそうなものを見繕ってもらった。
キュウリやナスのような実野菜、レタス、パセリのような葉野菜、それに、店特製のドレッシングらしいソースを1椀。
チーズを2ブロックほど、そして、すぐ食べられるように火を通したブタ、鳥の腸詰めを何房かだった。
それでも、総額で1千ピネ※は少し高い気がしたが、お祝いだ、ケチる気分じゃあなかった。
※約1万円
「ほほお、これは久しぶりのお酒が楽しく飲めそうですよう」
リォンリーネも普段食べない宴会仕様の飲食物にテンションが上がっているようだ。
「そう言えば、リォンリーネさんは飲めるんでしたっけ?」
迅代は色々と買ってきておきながら、今更聞く。
「ふふん、実は、お酒、とっても好きなんですよう」
「ちょっと貧乏生活が続いて控えていましたが・・・」
その言葉を聞いて迅代は驚く。
「そんなに飲むようなイメージじゃなかったんですが、そうなんですね」
テーブルにはおつまみを並べ、陶器の大き目のカップ2つにそれぞれ、ミードを注ぐ。
もう一つテーブルを持ってきて、残りのおつまみと、ミードの樽を置く。
ささやかだが、祝宴の準備は完了だ。
「獲物」を並べたテーブルの前にカップに入れたミードをそれぞれ持って向かい合う二人。
「では、カンパイしますか」
迅代が直ぐに酒を飲みたそうにしているリォンリーネに告げる。
「かんぱい?ってなんですか?」
リォンリーネはカンパイをしたことが無いようだった。
「俺の世界の風習で、お祝いとかでお酒を飲む時に、かんぱーい、と言ってお互いのグラスをぶつけるんです」
「まあ、気持ちを高める呪文みたいなもんですね」
「本当は1杯目を飲み干すみたいなんですけど、それは自分のペースでいいですよ」
迅代の説明にリォンリーネは乗り気になる。
「おお、良いですね、気持ちを上げましょう!」
リォンリーネはそう言うと、自分のカップを持ってうずうずしている。
「じゃあ、やっちゃいますか」
迅代はニコニコ顔をちょっと引き締める。
「では、こほん」
「えー、リォンリーネさんの多大なご協力で、見事、理想としたライフル銃が完成しました」
迅代はリォンリーネの目を見る。
改まった言葉に、リォンリーネはドギマギしていそうだった。
「本当にありがとうございました!」
「それを祝して・・・・カンパーイ!」
迅代がコップをリォンリーネのほうに差し出す。
「おお、わ、かんぱーい?」
リォンリーネが慌てて迅代が差し出したカップに「コン!」とぶつける。
それを合図に迅代はカップの酒をごくごくと飲み干す。
少し遅れて、リォンリーネも真似て飲みだす。
「くはーっ!」
「ふぃーっ!」
二人は定番のリアクションで酒のうまさを表現する。
「うまい!」
「おいしーです!」
二人は笑顔でお互いを見合わせる。
「かんぱい、良いですね!」
リォンリーネはニコニコした表情で気分も上がってきたようだ。
「ええ、俺がこの世界に召喚されてから。今が一番にいい気分です!!」
迅代もニコニコして答える。
「さ、おつまみの食べましょう!」
迅代はそう言いながら、樽のミードをリォンリーネのカップに注ぐ。
「腸詰め、おいしそうですよう」
速く食べたそうにして腸詰めを選んでいるリォンリーネを見て迅代は思った。
エルフは肉を食べないんじゃ?と、でも、今までも肉を食べていたか、と思い、ハーフエルフだしな、として納得する事にした。




