「本隊への帰還」
騎士アークス率いる陽動攻撃部隊は、魔王軍討伐部隊に1日遅れて、野戦城塞に到着した。
敵領域から本隊が居るであろう地点に部隊を向かわせたが、すでに本隊はおらず、地域に駐留している守備隊に聞けば、野戦城塞へ撤退したと言う。
そこで、続けての行軍となったが野戦城塞まで移動してきたと言う訳だ。
作戦開始から4日間ほどの連続行軍で部隊の人員はかなり疲れていたが、誰一人欠けずに戻れた喜びのほうが大きかった。
アークスとしては手早く部隊の帰隊を報告して、部下たちを休ませたかったが、到着後に兵舎にも入れずに城塞内の広場に留め置かれていた。
「何なんだ、一体」
「我が部隊に連絡もよこさず撤退して、その上、この扱い」
「本隊は、いったいどういうつもりなんだ!」
騎士アークスは声に出して不満を述べる。
「でも、なんかばたばたして居そうですね」
ヴォルカが目だけをきょろきょろさせて、周囲の様子を窺いながら話しかけてきた。
ヴォルカから話しかけてくるのは珍しい、と思いながら、アークスは言葉を返す。
「うむ、あそことあそこにもよその部隊が待機状態で放置されているようだな」
「何か城塞内で有ったのか」
ヴォルカはアークスの気の抜けた言葉に心の中でツッコんだ。
『いや、異常な雰囲気なんだから危険とか有るかも知れないでしょ』
『何で自分は無関係とか思うかな?』
でも、それは口には出さずに、返答する。
「アークスさんが本隊に行って聞いてくればどうですか?」
「おお、そうだな、ちょっと聞いてくるから待っていろ」
アークスはそう言うと、すたすたと兵舎が並ぶほうに歩いて行った。
『部下を思ってくれるのは嬉しいけど、ちょっと抜けているんだよなあ』
そう心の中で思いながら、ふと、オーリアが大人しいな、と思ってオーリアを探す。
オーリアは少し離れたところで、自分の荷物を枕に、かなりがっつり寝ているようだった。
『俺もこういう所はオーリアを見習わないとな』
そう思いながらも、ヴォルカは自分の荷物を抱いて座り込んだが、目だけはきょろきょろと周囲を警戒していた。
アークスは周辺の者に魔王軍討伐部隊の場所を教えてもらい、本部の天幕に入る。
「陽動攻撃部隊兵員9名、無事戻りました!」
敬礼をしながら天幕に入るアークスに、今回の作戦の命令書を持ってきた参謀だけがその中にいた。
「おお、アークス殿、無事に戻られたか!」
参謀は本当に良かったという感じで言った。
「いったいどうなっているんですか??」
「撤退したことも知らせてもらえなかったし、城塞についても留め置かれて放置ですよ」
アークスは不機嫌さを隠さずに言う。
「本当に済まない。本隊のほうでも色々と有ったんだ」
「それに、この城塞では、アイルズ子爵が暗殺されて、上へ下への大騒ぎなんだ」
参謀はそう言って、それぞれの状況を話してくれた。
「白虎支隊がそんな大損害を受けるとは・・・」
「それに何故アイルズ子爵が?だいたい、城塞内の衛兵が守る部屋の中でとは、いったい・・・」
アークスは誰もが疑問に思う点を聞く。
「だからこそなんだ」
「魔王軍の仕業と見られているのだが、どうやって侵入し、殺す事が出来たのか」
「死因は毒のようで、暗殺された二人ともに足に噛まれたような傷が有ったらしい」
「だが、部屋には動物のようなものは居なかった」
「もし、魔王軍がそんな警護が厳重な場所でも暗殺術を使えるなら、司令官である皇子殿下、いや、皇帝陛下ですら危ないかもしれない」
参謀は追い詰められた口調で話をする。
参謀の言葉にふと思い立ちアークスは口を開く。
「ボーズギア皇子殿下はどうされたのですか?」
参謀は答える。
「皇子殿下は城塞内の奥の部屋で、勇者ザーリージャ様を護衛に閉じこもっていらっしゃいます」
「次に狙われるとすれば、皇子殿下であろうとの事で」
アークスは少し考えて、口を開いた。
「状況わかりました」
「ともかく、わたしの部下は非常に疲れています、兵舎を割り当てるよう手配を願います」
そういってアークスは天幕を後にした。
『それにしても、皇子殿下はもう良い所無しだな』
『これでは付いて行こうという部下は居なくなるのでは無いか』
自分の部隊に戻る道すがら、心の中ではもう皇子への忠臣の気持ちが無くなったアークスは、他人事のように考えていた。
ボーズギア皇子は、野戦城塞内の中心部に位置する部屋の机に座っていた。
その部屋にはもう一人、勇者ザーリージャも少し離れた場所で座っている。
勇者ザーリージャは一応戦闘準備のスタイルで居た。
「いつまで、あたしはここに居なきゃいけないんだい?」
ザーリージャは不満そうな口ぶりでボーズギア皇子に聞く。
「わたしの、安全が確認できるまでだ」
怯えたような口ぶりでボーズギア皇子は言い返す。
「ったく、殺るつもりなら、さっさと殺ってるっつーの」
「なにか申されたか?」
「なんでも」
「わたしが死ねば、報酬の件も無くなる事、忘れぬようにな」
「わかってるよ」
そう言いながら、ザーリージャは罰ゲームのような護衛役を仕方なくこなすことになった。




