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「極秘計画」

アイルズ子爵は部屋に着くと、衛兵に伝える。

「今から重要な会議が有る、誰も入れるな」

その言葉に衛兵は敬礼すると、部屋の前の守りに就いた。


アイルズ子爵は応接のような部屋で、ドルチェ軍事補佐官に座るように勧め、口を開く。

「あれはダメだ。自分の事しか考えていない」

「自分の立場のために部下を使い潰し、自分の恐怖心で戦いを簡単に諦める」

「そして自分の虚栄心のために、軍を動かす」

「そんな人物が皇国唯一にして最強の決戦部隊を率いているなど悲劇だ」


アイルズ子爵は、ドルチェ軍事補佐官の目を見て虚心坦懐に心の内を話す。

このような話を皇国の官吏である者に話すことは相当なリスクだ。

ドルチェがその気になれば、皇族に対する不敬罪として告発も出来るだろう。

それでも、あえて心の内を話した。

アイルズ子爵はこれまで、ドルチェと一緒に戦いを進めてきて、信頼に値する人物であると見ていた。


ドルチェ軍事補佐官は、じっとアイルズ子爵の言葉を聞いていた。

優秀な官吏であるドルチェは、表情一つ変えないで、話の内容を聞いていた。


「おっしゃる通り、今の司令官には適性面で問題が有るようには感じます」

「しかし、政治的な面で言いますと、司令官の解任までは非常に難しいと言わざるを得ません」

ドルチェも具体的な名前は言わずに、ボーズギア皇子の問題は認めるが、すげ替えのような事は難しいと言う認識を示した。

ボーズギア皇子のバックにはリューベナッハ皇妃が居る。

すなわち、それは、リューベナッハ派閥の抵抗を突破できる政治力が必要になるからだ。

しかし、ドルチェ軍事補佐官は、ここまで言うからには不敬罪を問うようなつもりは無いのだろう。


「だが、このまま3勇者をあの司令官の元に置いておくことは、宝の持ち腐れで済むならまだ救いが有る」

「もし無理な行動を強いて、犠牲が出てしまってからでは遅いですぞ」

アイルズ子爵は、特に、今の支隊制による、攻撃力の分割を良い策とは思っていなかった。

特に、その支隊を、司令部の護衛に付けて攻撃力を減じて善しとするなど、愚策としか感じられないでいた。


少し考える顔をしていたドルチェ軍事補佐官は、意を決して口を開く。

「本来、わたくしの立場で言う事では無いのですが・・・」

「以前、リスキス村の解放作戦で大損害を受け、勇者ジンダイ様が行方不明になった時、皇帝陛下はその顛末を調査するようにお命じになりました」


ドルチェの言葉にアイルズ子爵は応じる。

「確か、アーロス子爵の反乱にまで発展したと言うあの事件ですな」


ドルチェは頷いて続ける。

「実は、公式な報告からは省かれているのですが、皇族の籍に有るものが、その反乱行為に関与していたと言う疑いが有りました」

「しかし、調査中にアーロス子爵は暗殺され、具体的な証拠も無かったために、嫌疑が有った事実さえ伏せられる事になりました」

アイルズ子爵は黙ってドルチェの話を聞いていた。

薄々はアーロス子爵の反乱に、ボーズギア皇子の指示が有ったであろう事は、状況から不思議では無いと、事件の報を聞いた時にも思っていた事だった。

アイルズ子爵はアーロス子爵と何度が話したことは有ったが、目上の者に逆らったり、意見したり、ましてや皇子を拘束したりなど出来ようもない小物という印象だったからだ。


「実は、皇族の関与、の面での調査を有る人物が継続しているのですが」

「そこで、当時のアーロス子爵の配下であった者の何人かを、皇族の関与の証人として用意できそうなのです」

ドルチェの言葉にアイルズ子爵は聞く。

「ならば直ぐにでも、皇帝陛下にその証言を含め報告すれば良いでは無いか」


その言葉にドルチェ軍事補佐官は首を振る。

「ただ、調査を継続している人物は、皇女派なのです」

「皇女派の人物からでは、生半可な申し出では、現状の力関係では握り潰されてしまうでしょう」


ドルチェの言葉に、アイルズ子爵はある程度納得した。

確かに今の皇女派は勢力が小さすぎると。

そしてリューベナッハ妃の派閥は皇帝派と肩を並べるほどに大きい。


「それを、今、わたしに告げたという事は、わたしのその証言の後ろ盾に成れという事か」

アイルズ子爵は伺うような目のドルチェ軍事補佐官に言う。


「皇帝派の実力者のおひとりである、アイルズ様が後ろ盾であれば、政治力でも拮抗できるでしょう」

「そして、その証言が表沙汰になれば皇国を大きく揺るがし、派閥の地図を塗り替える影響力も有るでしょう」

ドルチェはじっとアイルズ子爵を見て話す。


ドルチェは皇女派なのだな、とアイルズ子爵は考えた。

だが、アイルズ子爵は、リューベナッハ妃の勢力とは相容れない考えであるともずっと思っていた。

そして後継者筆頭と言われるボーズギア皇子の人となりを見た今、天秤はもう傾いていた。

『後継者争いにはもう少し時間をと思っていたが、ここは旗色を示してみるか』

そう思いながら、アイルズ子爵は口を開く。


「わかった、ドルチェ殿」

「ただ、手放しでこの話に乗るのは、我が地位や領地にも影響が大きい」

「一度、皇女殿下にお会いした後、皇帝陛下への上申を決定したいと思うのだが、良いか?」

アイルズ子爵はそう言うと、ドルチェ軍事補佐官に手を差し出した。


しかし、ドルチェ軍事補佐官は、急に顔に汗をかき、みるみる顔色が異常に白く変わった。

「ドルチェ殿!?」

口から泡を吹き、崩れ落ちるドルチェ軍事補佐官。


アイルズ子爵はドルチェの座るソファーの陰に、黒く動くものを認める。

「くっ!」

剣を抜き突き刺す。

「ヘビ?」

くねくねと黒い影のヘビが剣で刺されて苦しがっているようだった。

「グっ!!」

右足のふくらはぎに痛みを感じる。

見ると黒い影のヘビがふくらはぎに噛みついていた。

「ぐぉあああ!」

アイルズ子爵も体中の血液が逆流したような感覚に見舞われ、天地が逆転したように風景がぐるぐると回る。

口や鼻から液体が流れる感覚が有るが、制御など出来ず、意識も薄まって行く。

『これは・・・あやつの・・・』

そう思いながら、アイルズ子爵も絶命した。


そして、襲撃した2匹の蛇は、すっと床に出来た黒い影の中に姿を消した。

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