「先制攻撃」
魔王軍討伐部隊の今回の作戦編成は、相変わらず、攻撃部隊は白虎支隊のみ、そして魔法支援部隊、支援攻撃部隊が突入支援を実施する配置となった。
相変わらず、黒龍支隊は、司令部部隊護衛の任を与えられ、攻撃行動には出ない。
完全なる勝利を目指すはずが、戦闘力の30%を使わないという事だ。
無論、機動予備として残置し、危機や好機に強力な戦力を投入する備えと見えない事も無い。
しかし、今までのボーズギア皇子の指揮では、司令部護衛は動かさないだろう。
そんな状況に兵たちは司令官の腰抜けぶりを笑い話にしたかったが、そうもいかない状況となった。
最近は、指揮系統の徹底と言う名の、禁止事項が部隊内に伝達され、特に私的な会話でも上官を侮辱すれば査問の対象となる、との事だった。
無論それは、ボーズギア皇子への批判や悪口への牽制だった。
ボーズギア皇子は自分の知らない所でも、自分を批判するような者が居れば許せない、落ち着かない、との事で出た伝達事項だった。
人の心を押さえつけられる筈も無く、そんな事をすれば、離反する気持ちが大きくなるのに。
表面上は、その伝達は有効で、誰も司令官を名指しで批判や風刺をしなくなった。
しかし、実際は「小物大将」という隠語が下級兵たちの間で生まれただけだった。
作戦実施日の朝
作戦開始位置に向かって、勇者ヴィンツを擁する白虎支隊は前進を続けていた。
前衛護衛隊、勇者ヴィンツおよび支隊本部、後衛護衛隊と3つのグループでまとまって騎乗にて移動していた。
正午前には陽動作戦が開始され、その兆しを認めれば、戦闘開始と聞いていた。
最初に異変に気付いたのは勇者ヴィンツだった。
馬上より遠くを眺めるように視線を上げる。
前衛護衛隊の更に先の、右翼前方と左翼前方。
そこにうっすらと砂塵が巻き上がっているように感じる。
ヴィンツは支隊本部指揮官の元に馬の歩調を合わせる。
「前方、なにか来る。警戒態勢を」
ヴィンツの言葉に指揮官は慌てて警笛をならず。
緊急の警戒態勢移行の合図だ。
のんびりと移動していた護衛部隊の兵や騎士は慌てて装備を確認する。
そして前衛護衛隊も、ようやく、左右より接近しつつあるものに気づく。
Aクラスの魔獣とされるホーンフェンリルの群れと黒いもやを纏った兵士だった。
左右ともに同じような編成となっている。
「先手を打たれた、敵の奇襲だ!」
ヴィンツは部隊の各員に告げる。
「敵が多い、魔法支援部隊の掩護と、司令部部隊に連絡」
支隊指揮官も援軍が必要と見て伝令を放つ。
「勇者ヴィンツ様、後退しますか??」
さすがの敵の多さに支隊指揮官がヴィンツに聞く。
「ああ、止むを得まい、後退を!」
さすがのヴィンツもこの数を一人で相手には出来ない。
そして、まともにやり合えば、護衛の兵士に大きく損害が出るだろう。
しかし白虎支隊の後方に、2体の飛行体が飛来する。
後衛護衛隊の兵士が叫ぶ。
「後方、ヒポグリフが2体!退路を塞ぐつもりです!」
「なんだと!?」
支隊指揮官は驚きの声を上げる。
2体のヒポグリフは背中に魔王軍兵士を載せ、後衛護衛隊を攻撃してくる。
飛行速度は馬より速いため、1頭1頭襲い掛かっては、騎乗している兵士をヒポグリフの足の爪で切り裂く。
足の爪を剣などで受け止めても、敵兵が槍で突いてくる。
騎乗していては反撃も出来ず、敵の思うがままだった。
しかし、馬から降りれば、包囲環の中に部隊ごと封じられてしまう。
「勇者ヴィンツ様、援軍が来るまで、前衛護衛隊とで前の敵を抑えてもらえますか?」
「後方は、本部部隊と後衛護衛隊で対処します!」
支隊指揮官はヴィンツに告げる。
「わかった、武運を祈る!」
ヴィンツはそう言うと、前衛護衛隊の位置まで進出する。
「諸君、わたしが黒いもやの兵士を引き付ける」
「諸君らはホーンフェンリルの攻撃に対処してくれ」
「もうすぐ増援も来るはずだ!」
「命は大事にしてくれ!」
ヴィンツの言葉に前衛護衛隊の面々は馬から降りて防御陣形を組む。
そしてヴィンツは単騎で左右の敵の中央に突進して行った。




